連休を利用してキャンプに行ってきた。
サトイモは初キャンプ、私は中学の合宿以来である。
夫はミドルネームに「キャンプ」と入れるくらいキャンプ好きで、昨今のようなアウトドアブームになる以前からのアウトドア野郎だった。
ずっと、
「坊主をキャンプに連れて行ってやりたい」
というのが夫の願いだったので、今年とうとうその念願が叶ったのだ。
キャンプ野郎はキャンプ場なんかでキャンプをしない。
徳島の海陽町まで車を走らせ、適当な河原に降りて、勝手にテントを張って野宿をする。
キャンプに対してネガティブな思いしかない私としては、せめて今流行りのグランピングみたいな、トイレや炊事場完備のキャンプ場のほうがありがたいのだが、キャンプ野郎には、
「そんなんキャンプちゃう。おもんない」
と鼻で笑われてしまう。
二人で行こうと言われたら絶対行かないけれど、子どものことを考えると、行かざるをえない。
サトイモにはできるだけ自然に触れる体験をさせてやりたいからだ。
理由の1つは、単純に宮台真司の影響で、森のようちえんへの憧れ。
もう1つは、自分の子どもの頃と比べて、サトイモが自然に触れる機会が圧倒的に少ないことを危惧しているためだ。
私の子どもの頃なら、田んぼにオタマジャクシがウヨウヨいたし、アジサイの葉をめくればカタツムリが当たり前にいた。
サトイモは水田をまともに見たことがないし、自然のカタツムリを見たこともない。
そういう都会の子どもになんだか危機感があるから、キャンプは大賛成。(自分が行くのはさておき。)
当の本人、サトイモはキャンプをとても楽しみにしていた。
『しまじろうのわお』でも『パウパトロール』でも『おさるのジョージ』でも、キャンプが出てきた。
シミュレーションはバッチリ。
遊びをつくる才能
河原に着いたとき、夫はすぐにテントを張り始めた。
でも、なかなかすぐには出来上がらない。
「ねえねえ!はやくキャンプしようよ!キャンプまだ?!」
とサトイモが急かす。
「もうキャンプは始まってるんだよ」
と言っても納得できない。
早く川で遊びたいというので、一人水着に着替えて川に入る。
浅いわりに流れが早いので、泳ぐというわけにもいかないし、清流すぎて藻が生えていたり虫がいたりもしない。
一緒に遊ぼうと言っても、パパは一人で必死にテントを立てている。
私も川で何をどう遊ぶのかわからない。
やがてサトイモは、石を積んで川に堰を作り始めた。
なんの目的もなく、ただ石を積むだけの作業。
「じゃあ、ママはそこの石を運んで!そこやっといて!ボクはここやるから!」
なんで私が命令されなアカンねん、とムッとしたが、やってみると中毒性があり、私も楽しく一緒に石積みをした。
キャンプから帰る頃には、「ボクの石垣」はそれなりの堤になった。
「ボク、石垣の作り方を習いにいきたい」
「教えてくれる専門家がいたらね〜」
子ども向けの石垣教室。神戸にあったらすごいな。
石垣作りの合い間には、お絵描きもした。
やたらと「お絵描きしたい!」というサトイモに、
「え〜?!お絵描き?!」
とドン引きの夫。
「キャンプでお絵描きはしないよ。描くもの持ってきてないでしょ」
とまともに答えると、
「違うよ!石に描くんだよ!」
「なるほど、石か。それはいい考えだけど、油性マジックを持ってきてないよ」
「だ〜か〜ら〜」
とサトイモは呆れたように言う。
「石に水でお絵描きするの!」
9月ももう下旬なのに、お日様はカンカン照り。
よく乾いた河原の石ころに指で水を垂らすと、黒く染みる。
手形を押したり、顔を描いたりして、河原のお絵描きを楽しんだ。
「サトイモくんはじめまして!ボク、イシちゃん!よろしくね!」
私が顔を描いた‘イシちゃん’たちとサトイモはたくさんおしゃべりを楽しんだ。
総評:20点
ただ、私の総評では、今回のキャンプは失敗だった。
サトイモがことごとく親の言うことをきかなかったからだ。
川の浅瀬だけで遊んで、深いところには行かないように、と何度注意しても行ってしまう。
たき火の最中、薪をいじるな、薪を持っていくな、と言っても、薪を触り、叩きつけて火の粉を飛ばし、棒を振り回す。
さらに、たき火に石を入れたり(石が燃えるか燃えないか確かめたい)、川の水をかけたり(水で火が消えるところを見てみたい)、河原に大量に落ちていたシカの糞が燃えるかどうか確かめたい(燃えるだろうけどたき火が臭くなったらどうすんねん、と私達が止めた)と言ったりして、もう散々だった。
川については命に関わることなので、その都度こっぴどく叱られたし、火についても、火傷や火事の恐れがあるから怒鳴られまくる。
ビニール製の魚用バケツに石を大量に入れて穴をあけ、テナガエビ捕獲用の網を破り、薪を持ち出して危うくテントに火の粉が掛かりそうになって、夫の顔がずっと引きつっていた。
さらにやっかいだったのは、懐中電灯やLEDライトの取扱いだった。
普段からライトが大好きなサトイモは、キャンプで使えるのを楽しみにしていた。
まだ早いというのに、明るいうちからライトを付け始め、付けっぱなしにしすぎて電池がなくなってしまった。
ライトの置き場について細かくこだわったり、充電式のライトをクルマで充電してほしいと言って勝手なことをしたり、好きだからこそのワガママが炸裂。
さらに、夜にテントの中に明かりをつけたまま入口を開けっ放しにし、たくさんの虫を招き入れてしまった。
テントにアブがいる、と大騒ぎ。蚊も入っていて夫が憤慨する。
「ここではパパがキャンプリーダーなんだから、パパの言う事を聞きなさい!」
と私が叱りつけると、
「パパじゃない!ボクがキャンプリーダーだよ!!!」
と泣き叫び、とうとう夫までキレるまでに至った。
パパにまで怒られてフテ腐れ、せっかくパパがキャンプファイヤーで作ってくれたホイル焼きも、メスティンで炊いたごはんも、一口も食べなかった。(私は何も調理しなかったけど。)
認識の違い
もうキャンプは散々。ウンザリだな、と私はガッカリだった。
そんな中、見上げた夜空は満天の星。
「サトイモ、空を見てご覧!すごいお星さまだよ!」
見てるのか見ていないのか、サトイモは何も言わず。
こんなたくさんの星、神戸でも西播磨でも見ることがない。
すると、サトイモは川に向かって叫んだ。
「夜のキャンプって、サイコー!!」
ええっ?!?!
ずっとワガママ言い通しで泣き叫んで、パパにもママにも怒られ通しで険悪なムードだったのに?!?!
私はすっかり呆れてしまった。
その後、2回目のたき火でマシュマロを焼き、サトイモの機嫌は復活。
相変わらず火の扱いについて怒られ通しだったが、もう泣くことはなかった。
そうこうしていたら、もう寝る時間。
石の河原に建てたテントはお世辞にも寝心地が良いとは言えず、寝転ぶと身体が痛くなった。
それでもサトイモはテントの「お部屋」を喜んで、あっという間に眠りに落ちた。
サトイモが眠ったあと、夫と少し話をした。
「キャンプ、まだ早かったんじゃないの? しんどいよね」
と言う私に、夫は、
「うれしすぎて、ちょっと興奮しすぎたんかな」
と驚くほどポジティブな捉え方をしていた。
あんなにサトイモに対してイライラ怒ってたのに?!
ビックリしている私を置いておいて、
「やっぱりキャンプは楽しいなぁ。毎年の恒例行事にしよか」
と言うので、さらに仰天してしまった。
とても同じ体験をしている感想とは思えない…。
見通しと説明の甘さ
真夏のように暑かったのに、翌朝は寒くて震えながら起きた。
それなのに、サトイモは起きるやいなや、水着に着替えて川に入ると言い、
「こんな冷たい川に入ったら死ぬぞ!」
と私達は必死に止めた。
気温が上がってからは昨日と同じように遊んだが、予想外に小雨がパラつきだしたので、早めに引き上げることにした。
「なんで帰るなんていうの!!」
サトイモはもちろん反対の姿勢。
これは普通に説得しても絶対受け入れないな、と思ったので、
「昨日はお風呂に入らなかったでしょ? だから今から大きなお風呂に行って、お風呂に入ってから帰ろうか」
と提案したら、
「イエ~イ!おっきなお風呂、入りた〜い!」
と、一も二もなく車に乗り込んだ。
車が走り出すと、サトイモはすぐに爆睡。
ちょうどお昼前だったので、スーパー銭湯に行く前にどこかでランチを食べようと夫と話し合い、道沿いにあった地鶏料理のカフェへ。
眠っているサトイモを無理やり起こし、カフェのイスに座らせると、サトイモが激怒した。
「ここは大きなお風呂じゃないじゃないか!ごはん食べるなんて聞いてない!お風呂に入るって言うから、キャンプから出たのに!!だったらキャンプから帰らなかったよ!!今すぐ戻って!!」
お風呂に行くのは行くけど、お昼の12時になったらお昼ごはんを食べるものだ、言わなかったのは悪いけど、大人からしたらお昼ごはんは常識なのだ、と説得してもなかなか機嫌が治らなかった。
ランチは夫と交代で食べ、サトイモは車で待たせた。
サトイモが駐車場の砂利を投げるなどするので私が激怒し、状況はより悪化。
スーパー銭湯に着くまで険悪なムードが続いた。
今回の反省点は、サトイモに計画や見通しを伝えなかったことにつきる。
私が計画を尋ねても、夫は、
「ノープラン!あらかじめ予定を決めへんところがええんやんか」
と呑気に答えていた。
でも、発達障害児の対応はそれじゃ困るのである。
予定を伝えなかったら、ひたすら好きなことをしてしまうのだから。
一旦予定を伝えると、変更したら激怒するのだから。
最初に注意点やお約束を伝えておかないと、あとから言っても聞く耳を持たないのだから。
来年から小学校。
そろそろサトイモの取扱説明書を作って、小学校の先生に渡せるように準備しておこうと考えているが、一番に「あらかじめ伝える」が重要だと書いておかなくちゃ。