奇才サトイモの元気が出る発達日記

発達障害(ADHD&ASD)の疑いがある息子サトイモの子育て日記です。

警察と、こども家庭センターと。

警察署では、サトイモと私、それぞれが小さな部屋に通された。

奥に一人、手前に一人が座れる机がある。

取り調べや事情聴取専用の部屋なんだろう。

家に来たお巡りさんに話したこととほぼ同じことをまた話す。

お巡りさんも手帳に書いていたし、こちらでもノートに書く。

まだまだ筆記用具は健在!手書き万歳!

ひとしきり話すと、人がときどき入れ替わる。

数人が入ったり出たり。生活安全、特に少年担当と思われる。

ご自身も小学1年生の娘がいるという女性と、幼稚園年長さんの長男を含めて3人の子どもを持つ男性と、鈴木ヒロミツとシソンヌ長谷川忍を足して2で割ったような男性の3人が主なメンバーで、シソンヌヒロミツがどうやら一番エライ人っぽかった。

ときどき入れ替わるのは、こちらとサトイモがいる隣と、自分の事務机や管理職等との連絡をしているらしい。

隣の部屋からは、途中からワイワイキャッキャと遊ぶサトイモの声が聞こえてきた。

持ってきたトミカを走らせて壁にぶつけている音が聞こえてくるかと思えば、腕相撲か指相撲をしているらしく、「12345678910!」とカウントしている声も聞こえる。

ようわからんなぁ…。

 

で、どうしたいですか

シソンヌヒロミツから、こんなことを言われた。

「今、こども家庭センターに連絡をとっているところですが、警察は引きはがすことしかできないんですよ。このあと、どうしてほしいか、意向はありますか」

「どうしてほしいというのは?」

「こども家庭センターで保護してもらうというのも一つの手です。親御さんにはどうしようもないときに、一時的に預かってもらうという選択肢がありますから。自分たちではどうしようもできないから助けを求めたわけでしょう」

言われてみれば、「助けて」と願ったのは私。

でも、どうやって助けてほしいか、全く考えていなかった。

ただただその場を納めてほしかっただけ。

でも、施設に保護されたとして、サトイモの状況が改善されるだろうか?

私は子育てに失敗した。夫も失敗した。だからサトイモがこんなことになった。

でも、私たち以上に児童相談所の人たちはうまくやれるんだろうか?

子どもから暴力を受けて簡単に警察を呼んでしまうような母親失格の私の代わりに?

 

そんなふうに考えたら、涙があふれて止まらなくなって、号泣してしまった。

「でも、そんなことをしたら、あの子、親から見放された、見捨てられたと思いませんか?」

「それは、そう思わせないようにしますよ」

シソンヌヒロミツは簡単そうにそう言った。プロなんだから当然でしょ、とでも言いたげに。

「ここでなんとかしなかったら、身体もどんどん大きくなるし、どちらかがケガをすることになります。抑え込めるのも今だからでしょう。やられたら手を出しそうになるでしょう。でもここで親が手を出したら、今度は虐待ですよ。もう少しで手が出そうになったんでしょう。そうならないように、ここで何か手を打たないと。そう思っているから、助けを求めたんでしょう」

施設にサトイモを預けることを具体的に考えただけで、私は泣けて泣けてしょうがなかった。子どもと離れることが寂しいとかではなく、こうなってしまった自分が情けなかった。

そのあとも、シソンヌヒロミツは「***でしょう。::::でしょう。」と言っていて、

「で、どうですか」

と突然、返事を求められたが、私はただただ泣いた。

あ、ごめん、今泣くので精一杯で、鼻が詰まって、悪いけど何を言ってるのか全然聞いてなかったわ、と思いながら、また泣いてごまかした。

 

こども家庭センターはいっぱいです

一時保護という選択肢もある、という前提で、警察は神戸市こども家庭センター、つまり児童相談所への引き渡しを考えていた。

今日、今からこども家庭センターへ行ってください、というのが警察の話だった。

こども家庭センターと連絡がつくまで、ずいぶん待たされた。

取り調べ室の壁には「すべての通信機器の使用は禁止!」という貼り紙があったけれど、あまりにヒマなのでスマホkindleプチ鹿島著『教養としてのアントニオ猪木』を読んでいた。

隣では遊び疲れたサトイモが、

「いつまでここにいるの?なんでここにいるの?のどが渇いた!何か飲ませて!」

とゴネ始めていた。

確かに、サトイモは昼食も食べず、何時間も飲み物を口にしていない。

水筒くらい持ってきてやればよかった、どうせヒマなら自販機でお茶くらい買って渡してやりたいのに、と思うけれど、状況的にそれが許されるのかどうかもわからない。

 

ようやくこども家庭センターと連絡が取れたということで、私のスマホに電話がかかってきた。

すると、担当者が「何曜日がご都合がいいですか?」と言う。

「は?…あの、警察から今日中にそちらへ行って面談を受けてくださいと言われてるんですけど?」

「今日はちょっと時間がとれなくて。明日でいかがですか?」

「いいですけど、じゃあ明日で…」

明らかに、警察とこども家庭センターで言っていることが違う。

言っていることというか、事案の取り扱い方、熱量、スタンスが全く食い違っていた。

 

110番にかける前、児童虐待通報ダイヤル「189」に先にかけた。

でも、「お近くの児童相談所」にはつながらなかった。

それがすべてを物語っている。

シソンヌヒロミツがどんな正論をぶったところで、神戸市こども家庭センターは受け入れなんてできやしない。本来期待される役割はとうてい果たせない。

こども家庭センターから当日中の面談を断られ、警察もシューっとしぼんでしまって、

「…じゃ、帰りますか」

みたいなかんじで、またパトカーで送ってもらって帰ることになった。

 

効果はあったのか?

取り調べ室から出てパトカーに乗る前、「子どもに何か飲み物を買ってやりたいのですが」と自販機のあるフロアに連れて行ってもらった。

購入して、ジュースを飲んでいる間、

サトイモ、もうこれからは『叩かない、蹴らない、物を投げない、壊さない、噛まない、引っ掻かない、頭突きしない』って、お巡りさんたちに約束してくれる?」

と私が言った。

サトイモは全く反省の色はなく、知らん顔をしてジュースを飲んでいた。

付き添いの警察官が、

「そうやぞ。約束せえへんかったら、家に帰られへんぞ。約束できるか」

と口添えしてくれた。

しぶしぶ、「約束するよ…」と言うサトイモ

「約束やぞ。約束やぶったらまたここへ来てもらうぞ。嫌やろ。わかった?」

「わかった」

一応、本人が了承した形で、警察署をあとにした。

 

その約束のしかたが渋々っぽかったので、どこまで懲りたのかはわからない。

けれど、今のところ、それ以後明らかに「暴力」という形はとっていない。

お風呂で私に冷水の水鉄砲をやたらかけてくるけれど、それは私が歯をくいしばって耐える!

9月の目標は、暴力をふるわない!

殴ったり蹴ったりは、これを人生最後にしてほしい。

親子ゲンカで110番する

9月の我が家の目標は、「暴力をふるわない」。

当初は、叩かない、殴らない、蹴らない、物を投げない、というキャッチフレーズだったが、サトイモが「だったらこれはいいでしょ」と問題を増やすので、物を壊さない、噛まない、頭突きをしない、引っかかない、唾を吐かない、なども増えた。

叩かない、殴らない、蹴らない、物を投げない、物を壊さない、噛まない、頭突きをしない、引っかかない、唾を吐かない!

平和に暮らすことさえできれば、学校に行かなくたって、夜更かししたって、ごはんを食べなくたって、まぁいいか、とハードルを下げることにした。

 

なのに、これがなかなか改善されない。

金曜日の夜、サトイモ金曜ロードショーで『今日から俺は!』を見ていた。

私も一緒に見て、ときどき笑うと、サトイモは「どういう意味?」と聞いてくる。

それくらい、わかっていない。わからないほうがありがたいけど。

見てもわからないくせに、途中で寝ようかと促しても最後まで見るという。

「じゃあ、見終わったらテレビを消して寝ようね」

と終了が11時と遅くなるにもかかわらず、私は最後まで見るのを許可した。

ところが、終わっても消さない。

私が「終わったんだから消すよ」と消すと、

「何勝手なことをしてるの!早くしてよ!」

サトイモがリモコンを投げつけてきた。

「終わったでしょ!もう一回見たいってこと?」

と聞いても、そうではないという。

「早くって何を?何をしてほしいの?」

と尋ねても、

「早く!何をしてるの!早くして!」

としか言わない。意味がわからない。

そして殴りかかって来る、抑え込む、大声で叫ぶ。いつものパターンで大暴れ。

 

慣れてきたおかげで、投げる物や椅子・机は遠ざけて、サトイモの攻撃ができないように手足を抑えこむ、独自の技を私は編み出した。

グレーシー柔術が最強と言われるのは寝技中心だからで、闘いに重要なのはマウントをとること!…というようなサブカル知識だけで、これまで乗り切っている私。

夫はそれを知らないので、サトイモを後ろから抱きしめる形でホールドする。顔面に裏拳は入るし、胸に頭突きされるし、腕に噛みつかれるし、私よりダメージが大きい。

自分のほうが強いと思っているだけに、力で制してしまう。両者危険。

 

翌朝、夫婦で反省会をしたとき、

「寝たくないからゴネるんやろうな」

という結論に達した。

今日から俺は!』がそんなに見たかったわけじゃないだろう。

ただ、寝ない言い訳がほしいのだ。

だんだん精神疾患ぽくなってきた。

眠れないのではない。寝たくない。寝ない言い訳を探して、言い訳がたたないと暴れ出す。

 

月曜日の夜も似たパターンだった。

ドリフターズの映像のテレビ番組をやっていて、私と夫が喜んで見ていた。

サトイモも笑っていて、

「やっぱり子どもはドリフが好っきゃなぁ!」

と微笑ましく楽しい時間を過ごしたのだけれど、いかんせん終了時間が遅かった。

夫は「録画しておいて残りは明日見よう」と何度も言ったけれど、サトイモは「最後まで見る!」と強情をはった。

「じゃあ最後まで見てもいいけど、終わったら消すんだよ」

と私は擁護したのだけれど、擁護し損だった。

結局サトイモは終了後、またゴネた。

そしてまた暴力パターン。

あかん。

全然治らない。

しかも長引いていて悪化している。

 

導火線はいたるところに

そして火曜日。

ドリフ後の大暴れでサトイモは午前1時半ごろの就寝だったのに、私たちと同じ6時に起床した。

この日、私は雇用保険失業資格に必要な再就職セミナーを受講する日だった。

平日の午前中だから、本来ならサトイモが学校に行っている間に受けられるはずだった。

仕方ないので、夫に在宅勤務をお願いして、サトイモを家に置いて出かけた。

帰ってきたら夫から、

「邪魔されて大変やった。今日、なんかおかしいで」

と聞かされた。

睡眠不足でハイテンション。確かになんだかおかしい。

声をかけても昼食も拒否。

 

サトイモは午後から放課後等デイサービスに行く予定だった。

放課後等デイサービス、略して放デイ。

毎週金曜日に通っているそこは、不登校になっても唯一行けるサトイモの居場所だった。

それなら、と今週から日数を増やしてもらうことにした。

この日、初めて火曜日に行くの予定だった。

放デイにも、サトイモは持っていく病を発病していて、山のような荷物を持っていく。

荷物が多すぎて管理ができず、よく他人の持ち物が紛れ込んでいる。

サトイモの部屋に、見知らぬ恐竜フィギュアが落ちていた。

サトイモが出かける先は放デイ以外ないので、おそらく放デイから持ち帰ったと思われる。

サトイモに尋ねると、「知らない」と答える。

カバンの中に入っていたなら「知らない」で済むけれど、自分でカバンから出しているのだから知っているだろう。自分の物じゃないものが紛れ込んでいたらちゃんと報告するように、と私は注意した。

サトイモは「知らないよ」とふてくされたような物言いをする。

「もしかして、わざと持って帰ってきたんちゃうやろうな…?」

 

最近、サトイモが私や夫の持ち物を勝手に持ち出して自分の物にしてしまう、ということが多発していた。

一番ひどい事案は、私のお財布から現金を全部抜いて、自分の財布に入れていたことだ。(一枚だけ抜くのではなく、お札も小銭も全部というのが子どもらしい。バレバレやろ。)

そのときは「泥棒すんな!」と私も相当非難した。

本人は「盗ったんじゃない!借りただけ!」と言い訳をしたが、それは通用しない。

まさか、他人様のものを拝借する、なんてないよね?

私は頭ごなしに怒ったつもりはなかったけれど、サトイモは注意された、疑われたというだけでも気にくわなかったのかもしれない。

 

その恐竜事件もあるのか、はたまた寝不足から来る本当の不調なのか、放デイのお迎えが来る直前になって行かないとゴネだした。「しんどいから出かけたくない」と言う。

「しんどいならベッドで寝ときなさいよ」

と私が言うと、

「ここじゃ嫌だから向こうのベッドで寝る」

サトイモは夫がリモートワークをしている部屋へ行って、ベッドの上をぴょんぴょん飛び跳ねた。

午前中、さんざんサトイモに仕事を邪魔された夫は、

「こっちの部屋へ入らさんとって!」

と私に強く言った。

二人してサトイモを部屋から連れ出し、何度も部屋へ入ろうとするのを阻止。

やがてサトイモが物を振り回し、物で殴りかかろうとするようになった。

ここからは、いつもの暴力パターン。

夫の会議開始時間まで、二人で交互に抑えていたが、一向にサトイモの大暴れが止まらない。

いつもより長時間の闘い。

「助けて~!助けて~!」

サトイモが叫ぶ。

もうどうしていいかわからなくなった。

 

先週、子ども家庭センターに相談したとき、大暴れしたときの対処法を教えてほしい、と尋ねると、

「危険を感じたら警察に相談してください」

という。

「警察署に電話したらいいんですか?」

「いいえ110番です」

「そんなんで110番してもいいんですか」

「どちらかがケガをするよりもマシです」

 

それでも、なかなか110番通報するのには躊躇する。

一番最初、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」にかけてみた。

「189」は「いちはやく」。

こども家庭庁のホームページには「こどもたちや保護者のSOSの声をいちはやくキャッチする」とある。

けれど、「お住いの地域の郵便番号は?」と聞かれ、「お近くの児童相談所におつなぎします」と言われたまま、ちっともつながらない。

神戸市は、児童相談所=子ども家庭センターだ。

これじゃ、子ども家庭センターに直接かけたほうが早くないか?

子ども家庭センターに相談したら、110番通報しろと言われただけだったじゃないか。

何が「いちはやく」だよ。

結局、110番にかけることにした。

電話はすぐにつながって、すぐに向かいますと言われたけれど、待っている時間は長かった。

電話をかけている間も、待っている間も、サトイモとの攻防は続いていた。

グレイシーマウントポジション(のつもり)で抑え込む。

絶叫を続けるサトイモ

早く来て…。

 

結果、しばらくして制服のお巡りさんが二人やって来た。

来る直前にサトイモは大人しくなり、ソファの後ろに隠れて出てこなくなった。

夫は、自分がファシリテーションをする重要会議があるといって、110番通報後は部屋にこもった。

闘いが終わった…。

それだけでも、お巡りさんを呼んだ甲斐があった。

 

その後、ミニパトに乗って、私とサトイモは警察署へ。

初めてのパトカー。

「ごめんな、クラウンのパトカーのほうがよかったやろけど、おっちゃんの車はミニパトなんや」

お巡りさんは優しかった。

警察署へ行った話は、またあとで。

それにしても、いくら社長出席の重要会議だからって、妻と子どもが警察に連れて行かれるのに平然と仕事する夫ってどうよ…。そういう人なのはわかってるけど。

それが答えだ!

サトイモの今のマイブームは映画『リメンバー・ミー』。

2024年7月19日に金曜ロードショーで放送された録画を、何回も繰り返し観ている。

「今日もまた観てんの?!」と呆れながら一緒に観ていて、ふと気がついた。

「あの質問は『リメンバー・ミー』の影響だったのか!!」

父の法事のときにサトイモがお坊さんに対して、

「じいじはお浄土でまた死ぬことある?」

と尋ねたことがあった。

奇妙な質問に、お坊さんも私も、なぜそんな発想になるのか不思議だった。

「お浄土に行ったら、ずっとおるんや」

でも、『リメンバー・ミー』では、死後の世界も永遠ではなく、この世で家族や誰かが覚えていてくれているうちは存在できるけれど、家族に忘れられてしまうと消えてしまう、という設定だ。

だからサトイモはあんな質問をしたのか、と合点がいった。

サトイモが忘れてしまわない限りは、じいじもばあばもあの世で生きているんだよ。

それが答えだったのだ。

 

この夏はいろいろと、謎が浮かんでは、やがて答えがわかる、ということがあったので書いておこうと思う。

 

②の謎:伯母の戸籍

父の四十九日後に満中陰志を送ると、受け取った方たちから続々と電話がかかってきた。

父の妹であるキコ叔母さんもその一人だった。

近況報告など雑談をしたあと、私は恐る恐る、気になっていたことを尋ねてみた。

父の姉のミコ伯母さんのことだ。

父とミコ伯母さんはよく似た姉弟だったけれど、父の戸籍を見ると、ミコ伯母さんは養女だったことがわかった。

父が生まれる数日前に、父方の叔母夫婦から養子縁組されていたのだ。

父とミコ伯母さんは2つ違い。

なぜ出産直前中にイヤイヤ期の幼児を養子に?

ミコ伯母さんはとっくに死んでいるので、事情を聞くことはできない。

ミコ伯母さんの死後の手続きは父がしたので、父はミコ伯母さんが本当のきょうだいではないことを知っていたはずだが、その事実をいつ知ったのはいつなんだろうか。

そんな謎を、キコ叔母さんに恐る恐るぶつけてみた。

「キコ伯母さん、ミコ伯母さんの出生のこと、知ってましたか」

「それ、ちゃうんやで」

間髪入れずに叔母は答えた。

「ほんまのきょうだいやで。事情があって、ちょっとの間、おばさんのとこに養女に出とったんやけどな、戻ってきたんや。それだけ」

そういえば、私が妊娠してしまった後、夫が父に入籍のあいさつに来たとき、父がこんなことを言っていた。

「俺の親父とおふくろは駆け落ち同然やったから、長い間親から結婚を認めてもらえへんかったらしいわ。俺が生まれるときに、ようやく許してもらえたんや。そんなもんや」

かわいそうに、結婚を反対され、子ども(ミコ伯母さん)が生まれても養女に出され、第二子を出産するという段になってようやく結婚を認められ、子どもも本当の両親の元に戻された。そういう経緯らしい。

時は戦前。

今では考えられない養子縁組の世界がそこにある。

 

ただ、父の話では、

「跡継ぎ(男の子)が生まれたということで、結婚が許された」

ということだったが、戸籍を確認すると、結婚した日付もミコ伯母さんが戻ってきた日付も、父の妊娠中。

当時、エコーで妊娠中に男女の判別ができたとは思えないから、第二子の性別は関係なかったのではないか。

謎はひとつ解決したけど、またひとつ疑問が残った。

 

③の謎:外国人美女

海水浴に行った切浜の民宿でも、私と夫で推理ごっこをする事案があった。

サトイモが部屋に備え付けのスーパーファミコンをやりたいと言い出して、女将さんにどうやったらできるのか尋ねに行ったときのこと。

「私はゲームのことはよくわからないんですよ。お姉ちゃんがわかると思うから、お姉ちゃんに言っときますね」

そして現れたのは、ウェーブがかかった長い黒髪にホットパンツの若い外国人美女だった。

お姉ちゃんはスーファミを起動させるシステムのカギの使い方を教えてくれたものの、外部接続にするリモコンのボタンがわからなかった。

「スミマセン、私、マダ漢字ガ読メマセン」

と言う。

確かに、テレビのリモコンは漢字だらけ。「入力切換」が読めないというわけだ。

「あとはわかると思いますから大丈夫ですよ」

と私が引き取った。

 

お姉ちゃんは民宿内で、私たちが泊まる部屋の斜め隣の部屋に暮らしているようだった。

宿の手伝いをしているが、タバコ休憩が多く、一般人的なバイト従業員には見えない。

何の間違いでこんなところにいるんだろう??

日本円が安いから、出稼ぎとも思えない。

くっきりした目鼻立ちでアジア人ではないけれど、白人でもなく黒人でもなく、何人なのかもわからない。

ワーキングホリデー?留学生?

どれもなんか違う。

夫の推理はこうだった。

民宿は、女将さんとその息子が経営しているが、台所にもう一人、息子の奥さんらしい女性が働いていた。

よく見えなかったけど、彼女は外国人ではなかったか。

お姉ちゃんは彼女の連れ子で、母親の再婚でここへ連れて来られたのだ。

推測する国は中南米のどこか。さしずめブラジルあたり。日系ブラジル人という線もあり。

日本の田舎の嫁不足はここまで深刻なのだ…。

 

その後、その民宿を紹介してくれた私の伯母と電話する機会があり、恐る恐る、民宿の従業員事情を尋ねてみた。

「息子は結婚していないはずですよ。ああ、それはご近所の主婦が台所仕事を手伝いにきてくれるって言ってましたよ。カヨちゃんも高齢で手が回らないらしくて」

「外国人の女の子がいたんですけど…」

「あら、今年も来てました? カヨちゃんの孫が毎年夏休みの間遊びに来てるらしいんですよ。カヨちゃんの娘は若い頃からドイツに行ってて、そのままドイツ人と結婚しましてね。でも孫は、お母さんの里が気に入ってるらしくって」

事実は想像より単純明快。

誰だよ、嫁不足とか言ったのは。

 

④の謎:鍵盤ハーモニカの虫

サトイモはかつて『大ピンチずかん』という絵本がお気に入りだった。

日常のさまざまな場面での困り事に点数をつけて解説する、あるあるネタだ。

その中に、「自転車にハチがとまっている 大ピンチレベル81」というものがあった。

家の中でコバエが発生して、食卓にも飛んできたとき、

「お箸にコバエがとまった!大ピンチレベル75!」

なんて言って笑っていると、サトイモが、

「そういえば、学校で鍵盤ハーモニカの吹くところに虫が止まって困ったことがあったよ〜」

と話してくれた。

「そのあと気持ち悪くって、もう吹けない〜!ってなった」

「そりゃそうよね〜」

「洗わなかったらもう無理〜!って思ったけど、授業の途中だし、洗いに行けなくて、そのまま我慢したんだ〜」

「え〜?そうなの?先生に言って、洗いに行けばよかったのに」

「言おうとしたけどぉ、そういうのができないから学校なんだよ〜、そういうのがわかってもらえないんだよ〜」

「そうなのかぁ。それは辛かったねぇ」

 

そういえば、まだサトイモが学校に行っていたとき、担任の先生からこんな話を聞いた。

音楽の授業で鍵盤ハーモニカの練習をしていたとき、サトイモが途中から全く吹かなくなったことがあったらしい。

理由を聞いても答えないし、先生が促しても頑として吹かなかったそうだ。

「幼稚園のとき音楽会の練習が嫌でよく逃げ出してたんですけど、それが関係してるんでしょうか…」

私は勝手にそう理解した。

でも、違う。正解は虫だったのだ。

その後、不登校の相談のときに、先生にも、

「虫が吹口に止まったせいで、気持ち悪くて吹けなかったそうなんです」

と伝えた。

「そういえば虫がどうこう言ってました。虫の動きをずっと目で追っていたんで、てっきり虫に興味があるから、そっちに気持ちがいっているのだと思ってました」

サトイモは都会っ子なので、虫は嫌いで怖がるタイプ。

ASDの男の子なら昆虫が好きそうな気がするが、それもステレオタイプな思い込みにすぎない。サトイモはカブトムシとクワガタの違いもわからないような子だ。

先生に、サトイモの好みまで理解しろとは言わない。

ただ、サトイモにとっては、このような「辛いけど我慢しているしかなかった。なのに注意された」という学校経験の一つ一つが積み重なって、不登校につながっているのだろう。そう私は理解した。

サトイモが、

「学校に行ったら、心がけずられるんだよ」

と言ったことがある。

なかなか詩的な表現をしたもんだ。

だんだん、サトイモが学校を嫌がる気持ちがわかるようになってきた。

現在、私の大ピンチレベル10,000。

夏休み続行中

サトイモの完全不登校生活は続いている。

学校に行かなくなることで、私はこんなに楽になった。

  • 朝起こさなくていい
  • 朝の準備を急かさなくていい
  • 連絡帳の確認をして、持ち物の準備をしなくていい
  • 箸・箸箱・給食ナフキン・給食当番の服を洗わなくていい
  • 体操服や赤白帽を洗わなくていい
  • 宿題をさせなくていい
  • 夜早く寝るように急かさなくていい

上記のことをしなくてよくなると、ガミガミ怒ることも少なくなった。

ラクぅ〜!

 

他方で、学校に行っているよりツライのは、サトイモ睡眠障害

寝られないのではなく、

「僕は寝ないよ!ずっと起きてる!」

そう言って夜中に活動をする。

一人で活動してくれたらいいのだけど、

「ママが一緒じゃないとダメ!」

といって私を付き合わせるので、私まで寝られない。

寝ると叩き起こされる。

「おまえが寝ないのは勝手やけど、ママを起こすな!!一人で起きとけ!!」

毎日が寝たくないサトイモと寝たい私の闘い。

サトイモは朝ゆっくり寝てるけど、私は歳のせいか朝起きてしまって、睡眠不足が続き、どんどんイライラする。

 

日中、毎日ヒマかというと、それなりに忙しい。

いろんなところに助けを求めて、電話をかけたり面談に行ったり。

小学校、私の友人・先輩、特別支援教育相談センター、不登校支援相談センター、神戸市子ども家庭センター、放課後等デイサービス、通級教室、などなど。

学校に行かなくてもいいけれど、学びの場所と居場所は与えないといけないと思って、フリースクールを調べてみたり、友人とZoomミーティングをしてみたり(Zoomはサトイモが嫌がって大失敗に終わった)。

 

暴力をどう防ぐか

睡眠障害不登校の加え、サトイモには大暴れという問題がある。

叩く、蹴る、物を投げる、物を壊す。

これが一番困るし、ツライし悲しい。

なんとかならないものか、いろんなところに相談して、闘いの回数と反省を重ねるうち、傾向が見えてきた。だいたいこの二つ。

  • 頭ごなしに叱る、否定する
  • サトイモがかまってほしいときに私がかまわない、サトイモより別のことを優先する

傾向が見えるなら、予防もしやすい。眠くて眠ってしまうときや、私に心の余裕がないとき以外は。

 

あとは、予防できず暴れたときにどうすれば早く鎮静化できるか。

暴れることができない場所に連れて行く、というのが常套手段らしいけれど、狭いマンションではすごく難しい。

どの部屋にも、投げる物や倒す物が何かしらある。生活してるんだもの。

最近では危ないものまで投げつけてくるので、とても危険。

先日、物を投げ始めたときにお風呂場に連れて行ってみると、シャワーの水をかけられ、私も洗面所も水浸し。ドアを閉めると、掃除スポンジの柄でドアを破壊されてしまった。

似たような場所としてトイレがあるけれど、トイレットペーパーを出しまくる(出すだけなら再度巻いて使える)、トイレットペーパーホルダーを破壊しようとする(未遂に終わってよかった)、タンクの中に物を入れられたりする(見た目にわかりにくいのでけっこう困る)。最悪の場合、トイレを詰まらせるという行動に出られると、迷惑はなはだしい。

 

どうしたら安全を確保できて早く終息させられるだろう…、といろんなところに意見を聞いた。

暴れたい衝動と身体を動かしたい欲求があるのでは、というアドバイス

なので、格闘技を習わせるのはどうか、という話も出たけど、これまで通っていた習い事教室も拒絶している今、空手教室などに通えるとは思えない。

サンドバックを叩かせるはどうか、と提案されたものの、狭い家には置く場所がないし、「腹が立ったらこれを叩いて」と言ったところで素直に耳を貸すとも思えない。

だいたい、サトイモは私に相手になってほしいのだから、私を殴りたいはず。

それで、グローブとミットはどうかとたどりつき、Amazonでこんなものを買ってみた。

このミットなら、物を投げつけてきたときに防御もできそう。一石二鳥?

 

昨日届いたら、サトイモは大喜び。

さっそくやってみた。

ちゃんとパンチを出してくれればいいのだけど、サトイモはボクシングや空手のパンチの方法を知らない。めちゃくちゃに叩いてくるし、両手同時に上から振り下ろしたりグローブをつけたまま体当たりしてくることもあり、なかなか思ったようにはいかないもんだ。

しかも、思ったより、受ける側の衝撃が大きいんですけど…。

私のがっかり感とは裏腹に、サトイモは思いっきり身体を動かすので大満足の様子。

グローブをつけて一人で壁も叩いてみて、 音が大きく響く壁とそうでない壁を調べていた。

「そこはうるさいから叩かないで!」

「ここが大きな音がするのは、後ろが穴だからだよ。修理のとき工事のおじさんを見てたから知ってる」

マンション建築の構造研究でもやってくれ。

 

戦争反対!

ひとまず9月の目標は「暴力を振るわない」!

つい戦いに火が付いてしまう理由に、

「やったらやり返す!やられたんだからやり返してもいいでしょ!」

という言い訳がある。

叩くのはダメ!蹴るのもダメ!物を投げるのもダメ!物を壊すのもダメ!そして、「やられたらやり返す」もダメ!

とにかくこれが最優先課題。

2番目が睡眠リズムと早寝早起き。

学校へ行くのは3番目でいい。

 

サトイモとテレビを見ていたとき、イスラエルとガザの戦争についてのニュースをやっていた。

「なんでこんなひどいことになってると思う?やったらやり返すをやってるから、戦争が起きたし、一度起きたら終わらないんだよ。だから絶対にやったらやり返すはあかん」

私がそう話した。

その後、家に帰ってきた夫に、

「我が家の一番の目標は、暴力をふるわない、ですからね!いいですか?」

と私が宣言した。

「これが我が家のルールです。うちの家では、やられてもやり返さない!」

すると、離れたところで聞いていたサトイモがやってきて、

「我が家だけじゃない!世界中でだよ!」

と言う。

「世界中?」

と夫が聞き返すと、

「世界中で、やったらやり返すをやめるんだよ!そんなだから戦争がなくならないんだよ!戦争をなくすためには、世界中でやったらやり返すをやめる!わかった?」

と演説をぶった。

サトイモは世界のことを考えてんの?!この家はすごいな」

と夫は笑った。

 

サトイモはどんどんビッグマウスになる。

温暖化問題、食料危機、エネルギー問題、防災関連について、トンデモ理論を演説する。

しかし、世界平和について大言壮語を言った翌日にも、寝る寝ないで大暴れ。

言うこととやってることが全然違うじゃないか…。

難しい子どもに育ててしまった。

捜査一課が来た!

2024年9月6日現在、サトイモは完全に不登校になってしまった。

結局、8月30日の登校日と、9月2日の始業式しか行けなかった。

振り返ると、9月2日も相当行きしぶっていたのに、

「遅刻してでも、サポートルーム登校でも、取り合えず学校に行こう、どうしても嫌だったら早退したらいいから」

と連れて行ったのが良くなかった。

あとで落ち着いたときに本人が話してくれたことによると、

「ママの嘘つき!どうしても嫌だったら保健室に行ったり、帰ってもいいって言っに、先生たちがそうさせてくれなかった!だから僕は逃げ出したんだけど、追いかけてきて捕まえられて、怒られて叩かれた!」

という。

最後の「叩かれた」の真偽は鵜呑みにできないけれど(捕まえる際にもみ合いになることは私もよくある)、本人の認識はそうなのだろう。

それで、

「もう二度と学校には行かないよ!」

となってしまった。

 

コーチにまで大暴れ

その月曜日の夕方はスイミングスクールだった。

8月のレッスンでは2回もコーチとトラブルがあり、もうダメかもしれない、と思っていたけれど、最終週の昇級試験では頑張って1時間まともにレッスンができ、テストも合格して昇級した。

「やっぱり今日、スイミング行きたくない…」

ちょっとつぶやいたけれど、

「帰り、お友達と一緒にスーパーに行くんだったら行く」

と言うので、それほど心配なく連れて行った。

準備体操もノリノリで参加しているし、よしよし、と思って見守っていた。

ところが、レッスンが30分ほど過ぎた頃、様子がおかしくなった。

コーチと揉めている。

泳げるようになるまでは、腕に浮袋をつける規則なのだけれど、サトイモはそれを外してしまう。

背が立たないし泳げないし、外すと溺れてしまうのに、外すからコーチはつけさせようとする。

揉み合いになる。

コーチを蹴る。(水の中なので深刻ではない)

プールサイドを走って逃げる。

飛び込むなど一人で勝手な行動をとる。

監視員に、口に含んだ水を吐きかける。

私も出ていって、「そんなことをするなら帰ろう」と声をかけるけれど、プールから出てこない。

友達や友達のママたち、ほかのコーチたちも寄って来て声をかけてくれる。

もしかしたらこれが良くなく、注目を浴びたために余計に行動が悪化した。

浮袋を両方外して投げる、背の立たないところで溺れる、助けてもらって蹴って逃げだす、また飛び込む、の繰り返し。

ジャグジーにも飛び込み、ほかの保護者に水しぶきをかける。(水しぶきをかけようとしたわけではないけれど、人がいるところで飛び込むと水がかかるに決まっている。)

 

なんとか捕まえられる場所に出てきたところを、私がタオルでくるんで強制的に連れ出した。

取り押さえる私の腕に噛みつく。

噛まれるのは初めてだったけど、乳歯なのでたいして痛くない。

逆にさるぐつわのように腕をあごに突っ込んで離さないようにした。我ながら優れた反転攻勢。

更衣室で強制的に着替えさせる。

唾を吐きかけてくるので、サトイモのパンツで拭く。

「唾がついた汚いパンツを履いとけ!」

と無理やり履かせる。

さらに嫌がるサトイモ

着替えの最中、

「もう無理!もう嫌だ!普通の生活がしたい!」

と意味不明なことを泣き叫ぶ。

普通の生活って何なんだよ!?普通の生活がしたいのはこっちやっちゅうねん!!

暴れるので、着替えさせる最中にひっくり返って壁に頭を打ち付け、大泣きする。

完全に頭にきているので、ざまあみろ、と笑う私。

着替え終わったあと、無理やりエレベーターに乗せてスイミングスクールを連れ出す。

裸足のまま連れ出したので、駐輪場でサンダルを履かせようとしたけれど、暴れて蹴って来る。唾を吐きかけられ、また噛まれる。

当然、アスファルトサトイモを抑え込む私。

「蹴らないって約束したら放す。いい?」

「蹴らないから放して!」

そう言ったので放すと、サトイモは裸足のまま脱兎のごとく走って逃げた。

やれやれ。

 

二度目の警察

スイミングスクールには自転車で来ているのに、走って逃げたりして、自転車どうすんだよ!!

と呆れるばかりで、私は自分の自転車に悠々乗りこんでサトイモを追いかけた。

途中、発見。

しかし、近寄ると自転車を蹴ってくる。

危ないし頭にきたので、先に家へ帰った。

取りあえず荷物を家へ置いてから探しに出かけよう、と玄関を出たところ、サトイモが走って帰ってきた。

「ああ、おかえりなさい」

すると、そのあとを追いかけて、背の高い男性が突然現れた。

走ってきたようで息せききっている。

「お母さんですか? ここ、あの子の家ですか??」

「はい…、あの、あの子なにかしたんでしょうか??」

「突然でごめんなさいね、急いで追いかけてきたんで、手帳と名刺を置いてきてしまったんですけど、あの、僕、兵庫県警の捜査一課の者で…」

と首から下げている職員証を見せた。

 

その男性が言うにはこういうことだった。

別の事件を終えて県警本部に帰ろうとしていたところ、県警前を裸足で走っている子どもを見かけた。

かつて、福祉施設から逃げ出した児童が事件に巻き込まれて殺されたことがあり、裸足で逃げている姿等がその事件にとても似ていたことから、気になって追いかけてきたのだという。

呼び止めたけれどサトイモは無視して逃走。(男性曰く、「知らない人から話しかけられて、怖くて逃げたのかもしれない」)

そのまま追いかけてきたらこのマンションにたどりつき、たまたま中から出てきた人がいるのでオートロックが開いて中に入ってきたということらしかった。

「お子さんはどこかから逃げだしたとか、そういうのじゃないでしょうか?」

「逃げたのは逃げたんですけど…」

次は私が、事情を説明する番になった。

スイミングで言うことを聞かなくなり、そこで逃げ出したことを普通に話した。

「お騒がせしてすみません」

 

それにしても、その男性。

うちの夫の身長が180センチあるけれど、それ以上のすらりとした長身、ひげのある少し渋めの見た目。大谷亮平というか竹野内豊というか、それを足して2で割ったような(結局同じ顔か)、とびきりのイケメンなのだった。

しかも捜査一課。

ドラマか!!

刑事が突然家を訪ねてきたのにも驚くけれど、そのうえ俳優かモデルかといった刑事がいることにもビックリしてしまった。

 

さすが県警本部

大谷亮平似の刑事と話していると、捜査一課からさらに3人の刑事がやってきた。

男性二人と女性一人。皆それなりに若い。

さきほどから「刑事」という単語を使っているけれど、刑事、警部補、警部などの違いが私にはよくわからないからひとまず一括りに「刑事」とする(実際、名刺をくれた一人は「警部補」だった)。


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子どもと親のそれぞれから事情聴取ということで、サトイモの相手は女性の刑事が担当。

私は3人の男性刑事の質問に答えることに。

今日の経緯だけではなく、成育歴や普段の生活も尋ねられ、発達障害があって最近家で荒れていること、学校も行き渋りがあること、よく逃げ出すことなども話すことになった。

さすがだなぁと思ったのは、

「過去にも一度保護されたことがありますね」

と、幼稚園年中のときに行方不明になって県警本部で保護された過去の記録がすぐ出てきたことだ。

そして、刑事同士、事情聴取した情報のやりとりをLINEで行っていた。

なるほど、グループLINEを使ったら情報共有が早い。2021年に父がヘルパーに泥棒されたときに対応してくれた警察署とは全然違う!!(「おい、うちの署にインターネット使えるパソコンあるか?」には卒倒しそうになったもんなぁ…)

 

いろいろと話をしているうちに私は情けなくなってきて、

「いうことはきかないし、暴れるし、逃げ出すし、こうやって皆さんにご迷惑をおかけするし、もうどうしたらいいかわかりません…」

涙目で泣き言を言うと、刑事さんたちはおおむね好意的で、

「ぼくらもこういう仕事をしているから、発達障害の子の子育ての大変さとか、一般の人より理解あるほうやと思います。実際難しいことがいっぱいあるんやと思うし、できるだけ周囲を頼って、一人で頑張りすぎんように。僕らもええように頼ってもらったらええから」

と優しかった。(でも、頼るって具体的にどうやって???)

 

最近は私が何を言っても、「ママはウソばっかり!大人はわかってくれない!」と反抗していうことを聞かない、という話をした。

「外で裸になったら子どもの裸が好きなおじさんにいたずらされるよ、子どもがお金を持ってたら泥棒にあうよ、ひとりで出歩いたら連れ去られるよ、と言っても、『そんなのウソなんでしょ!本当は大丈夫なんでしょ!』といって信じないんです。『だって、地震も台風もくるっていって、こなかったじゃないか!』って」

「確かに。しっかりしてるなぁ」

「昔、長田区で一人で歩いていた小学生の女の子が殺された事件がありましたよね。こんなことになるんやで、って実際起こった事件を教えてやっても、『ニュースに出てても本当に殺されたのかどうかわからないでしょ!じゃあその子が死んでる証拠をみせて!』って口ごたえばかりですよ…」

「…その事件の捜査、僕、担当したんです」

刑事の一人が言ったので、びっくりした。

テレビの中の世界とつながったような気分になった。

それで捜査一課…。

捜査一課といえば、殺人などの重大事件を捜査する担当だときいているから、なんで子どもが走っていただけで追いかけてくるのかなぁ、と不思議だった。

福祉施設から逃走して亡くなった子どもの件、神戸長田区小1女児殺害事件、そしてサトイモの逃走事件。なんだかつながった。

日本の警察は事件が起きてからでないと動かない、といわれるけれど、サトイモのように事前に守ってもらえる場合もあるんだなぁ…。

「僕らから伝えておいたほうがよかったら、何かお子さんに言うときますよ」

と刑事さんが言うので、悪い人は実在して事件は本当に起きるのだ、ということをサトイモに直接伝えてもらった。

 

今日のケースは一応、一旦行方不明になった児童を警察が保護し、保護者へ引き渡した、という形になっていた。

そのため、県警本部の刑事ではなく、次に生田警察署の制服警官たちがやってきた。

こっちは交番や街中でよくみかけるタイプの、いわゆるお巡りさん。

再びサトイモに聞き取りをし、私は引き渡しの同意書にサイン。

警察が家の中をずかずか入ってくるのも、なんとも思わなくなった。

たまたま掃除しててよかった~!

 

懲りるかと思いきや

これだけ大事件になってしまって、さぞやサトイモも懲りるだろう、と思いきや、果たしてそうはならなかった。

夜、またしても夫の言うことを聞かず(いつまでも録画している映画『リメンバー・ミー』を見ている、歯磨きもしない、ベッドにいかない、etc)、注意されていることに逆ギレしてまたしても大暴れ。

何も変わってない!!

「またお巡りさんに来てもらおうか」

と私が脅しても効果なし。

 

振り返って考えると、私が悪かった。

警察御一行様が帰ったあと、私は精神的に参ってしまって、サトイモのことは一切無視して黙々と夕食づくりをしていた。

サトイモはずっと一人で『リメンバー・ミー』を見ていた。

サトイモのフォローをしてやらなかった。

びっくりしたね、と抱きしめてやって、もう二度とこんなことがないように、と反省会をすればよかった。

 

これはちょっともう、本当に大変だ…。

私たちはサトイモ発達障害と登校しぶりを甘く見ていたかもしれない。

実際はどちらも、考えていたよりずっと重度なのだ。

このままではダメだ、この状況を変えるために本気で考えなくては…、と私自身が方針転換を余儀なくされる日になった。

できるかぎりの方法を試す。知識を習得する。助けてもらえる人には片っ端からSOSを送る。反省点を活かして、同じ失敗を繰り返さない!

 

にしても、「幸せな人生より面白い人生を」を標榜する私だけれど、いきなり大谷亮平似の刑事が家を訪ねてくるなんてことある??

サトイモがいると、退屈な人生にだけはならない。

ミニテロリストとの交渉

登校日の午後、サトイモが放課後等デイサービスに行っている間、担任の先生から電話があった。

登校できたものの、途中で脱走、持参した玩具で遊びだし、先生たちと話し合いの末、サポートルームという場所で下校時刻まで過ごしたということだった。

サポートルームというのは、不登校児童が通うための部屋らしい。

来週以降、登校渋りがひどかったり、脱走したりするようなら、サポートルーム登校はどうでしょうか、と担任からの提案。

それを許していただけると、どんなにありがたいか…。

そして今日からサポートルーム登校をしている。

 

サトイモが脱走した以降、教室のみんなは夏休みの思い出を絵日記に描いたそうだ。

サトイモは脱走したから提出なし。

夏休みの思い出かあ…。

 

この夏のハイライト

サトイモが夏休みの思い出を絵日記に描くなら、お盆過ぎに行った海水浴だろう。

兵庫県北部但馬地方の日本海に面した切浜の海へ遊びに行ったのだ。

遠い親戚(私の母方の伯母の従姉妹)が切浜で民宿を経営していると知り、一度遊びに行こうということになった。

 

同じ兵庫県でも、私のホームは瀬戸内海の新舞子浜。

新舞子は、四十年前でもあまりキレイではなかったが、地元で近いからよく遊びに行っていた。

というか、海といえば新舞子しか知らなかった。

小学生の頃、近所の幼馴染の姉弟から、

「えー?新舞子なんか汚くない?うちは毎年日本海まで行くけど、海が全然違うで」

と自慢されて、めちゃくちゃ悔しい思いをしたのを今でも覚えている。(その金持ち家庭の姉弟は、今お姉さんが議会議員、弟が四大監査法人の会計士になっている。子どもの頃の経済格差が今につながる証拠!)

 

なので、私にとっては憧れの日本海

よっぽどキレイな海だろうと勝手に思っていた。

ところが、このお盆休みは台風。

行ったのは台風が通り過ぎたあとだったので、遊ぶのには問題なかったものの、海にはたくさんの漂流物があふれ、ゴミだらけ。

イメージと違うなぁ…。

そんな海でも、サトイモは大喜びで、泳ぐ、はしゃぐ。

台風の名残がある天候は、にわか雨に曇り空、風も強い。

水温も気温もあるけれど、風に吹かれると寒くて、すぐに唇が紫色になる。

休憩しようと言っても、サトイモはなかなか浜には上がらない。

私は水着に着替えるのが面倒で海に入らなかったので、ずっと夫がサトイモに付き添ってくれていた。

夫の疲労は相当だったと思う。

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民宿でのゴネゴネ

民宿は、80歳いくらか過ぎた女将さん(私の伯母の従姉妹)と、Uターンしてきた女将さんの息子が経営している。

女将さんは愛想良くお話してくれるけど、いかんせん高齢。一方、息子は究極に無口で無愛想で物を運ぶだけ。

宿の設備などについて一切説明もないし、こちらから尋ねるにも尋ねにくいわ不在がちだわで、滞在中、常に戸惑ってばかりいた。

サトイモはドタドタと走り回ったり階段をジャンプしたりして大きな音を出す。

常に「静かにしなさい」と注意しないといけなかった。

 

夕食は庭でバーベキューだったが、その間もサトイモは、

「もう一回海に行く」

とゴネ始め、食事の席から勝手に部屋に戻ってしまった。

追いかけて部屋に行くと、

「早く水着を出して!」

と素っ裸で叫んでいる。

「これからお日様が沈むよ。夜の海は危ないから行けないよ」

と説得しても、

「もう一回海に行く!」

となおさらゴネる。

部屋からはビーチが見える。

誰もいない。

「夜の海には入っちゃダメってルールなの。ね、見てごらん、誰もいないでしょ」

「だからいいんじゃないか!誰もいないところで広々泳ぐんだよ!」

「夜の海にはオバケが出るよ。行きたいなら一人で行けば?ママは怖いから行かないよ」

あの手この手で説得してみるものの、効果なし。

それどころか、私が受け入れないことにサトイモはだんだんイライラしてきて、

「今すぐ海に行くこと!じゃないと、これを壊す!」

と障子に手をかけて脅した。

「そんなことはしないで!宿の人に迷惑でしょう?」

サトイモの手を掴んで、私は鬼人の形相。それで穏やかに説得してもやはり効果なし。

さすがに本当に障子を破りはしなかったけれど、ゴネは続く。

「海に行くからついてきて!」

「いやいや、ごはんが終わったら花火だから!楽しみじゃない?」

「花火もやるけど海にも行くんだよ!」

「じゃあ、パパとママが晩ごはん食べ終わるまで、そのゲームやって待ってるってのはどう?」


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部屋にはなんと、百円を入れたら動くスーパーファミコンがおいてあった。

この中途半端なレトロさ、さすが古い民宿だけある!

女将さんにカギをもらって、百円を入れなくても動くようにしてもらったので、スーファミやり放題。

マリオカートスーパーマリオができる。

サトイモはひとまず、ゲームがやれるということで、引き下がってくれた。

 

小さなテロリスト

食事のあと、外へ出て、花火。

特に問題なく、あっという間に終了。

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しかし、問題は就寝前に発生した。

サトイモはいつまでも下手くそなマリオカートを続けていて、寝ようと言ってもゲームをやめない。

歯磨きしようと言っても無視。

眠るための薬は拒否。

おまけに部屋を出ていって外へ出ようとする。

外へ出て、コンビニに行くのだと言う。

しかし、近くにコンビニなんてない。コンビニは何キロも先だと言っても理解しない。

そしてまたしても、

「じゃまをするなら、大声を出すよ!」

と私達を脅した。

 

最近、この手の脅しが増えた。

サトイモは小さなテロリストだ。

私の中のジャック・バウアー(声:小山力也)が、

「テロリストの要求には応じない!我々はテロとの交渉はしない!」

と叫ぶ。

私も夫も、テロには絶対に屈しない。

だから平行線は続く。

ただ、家なら、

「おう、ほんならやってみい!やったらどうなるかわかっとんやろなぁ!!」

とこっちも強気に出られるけれど、宿の備品を壊されたり大声を出されたりして、宿や他の宿泊客に迷惑をかけるのは絶対に回避したい。

 

夫が我慢の限界に達して、サトイモの口を押さえながら抱きかかえて外へ連れ出した。

離れた駐車場に停めている車まで連れて行って、落ち着いたら薬を飲ませようという作戦。

普段、薬はプリンや甘いヨーグルトに混ぜて飲ませているが、旅行にそんなものを持ってきてはいなかった。

「なんで持ってきてないん?!」

という夫の非難にカチンとくる。

どうやってプリンを持ってくるの?じゃあおまえがサトイモの持ち物準備せえや!…と言いたいけれど、実際、薬を飲む方法にまで思い至らなかったのは私のミスなので、スンとなる。

その後、車の中でサトイモは少し落ち着いて、薬もお茶で飲むこともでき、部屋に戻って少ししたら寝た。

 

旅行には行かない

「もう二度とサトイモを連れて旅行には行けないね」

帰りの車で、夫はサトイモに言った。私も同意。

「どうして?」

サトイモは無自覚。

「宿で大暴れしたから。もう宿には泊まれないよ」

「じゃあ、キャンプはどう?」

「キャンプやったら誰にも迷惑かけへんからええか。次はキャンプに行こか」

ええ~っ!!

何なんだ、この二人は??

私はもう、サトイモとは出かけるのでさえ億劫になっている。

テロリストとのお出かけには応じない。

登校日の憂鬱

8月30日、今日は登校日だった。

もう学校には行けないんじゃないかとほぼ覚悟していたけれど、結果だけを言うと、なんとか今学校に行ってくれた。

結果は短文だけど、それまでの過程は長文でないと説明しきれない。

 

大暴れモンスター

夏休み以降、サトイモが大暴れすることが多くなった。

「やったらやり返す!!やられたからやり返したっていいでしょ!!」

という理屈で、親を殴る蹴る、物を投げる、ぶつける、壊す。

最初はこちらも強硬な態度で渡り合っていたが、どんどんエスカレートする一方だった。

だんだん、やられてないのに「やられたからだ」とウソをついて暴力をふるうようになった。

 

なぜこうなったのかを考察するに、親が体罰を与えたからじゃないか、という結論に達した。

体罰を肯定すると、「暴力で他人を動かしてもいいと正当化する」ことになる。

「これからは、やられてもやり返さない!」

私と夫はそう誓って、サトイモから叩かれても何かをぶつけられても耐えた。(夫は巨峰の皮を投げつけられて「人生の屈辱だ」と震えながら我慢した。)

怒らない、体罰を与えない、を肝に銘じて、少し平和が戻ってきたところで、夏休みが終わろうとしていた。

 

明日の準備も終わって、さて寝る準備をするよ、という段になって、サトイモがゴネ始めた。

令和6年のピカピカの十円玉が一枚足りないという。

最近、あれがない、これがない、どこへやった?がものすごく増えた。

ちゃんと片づけない自分が悪いくせに、

「ママどこへやったの?」

と私のせいにする。

知らんがな。

その十円玉についても、こっちは入浴中なのに何度もやってきて、

「いつになったら上がるの?早く一緒に探して!」

と急かしてくる。

結局見つからず、「ママの十円玉を一枚渡すから、それでかんべんして」と手を打つと、今度は、

「のどが渇いたからお茶いれてって何度も言ってるのに、まだなの!?」

と言いがかりをつけてきた。

今初めて聞いたけど?

そのうえ、

「今日プリントやったのに、YouTube5分券まだもらってない!早くYouTube見せて!」

とさらにイチャモンをつける。

我が家のルールでは問題集を1ページやるごとにYouTube視聴券5分がもらえるルールなのだが、やった分はこまめに視聴券を渡しているうえ、渡されたらサトイモはすぐに見る。

「今日やった分は渡してるし、もう見たやんか。覚えてないの?」

と私が言えば言うほど、

「ママの嘘つき!早く券を出せ!YouTube見せて!早く!じゃないと…」

とわかりやすくモンスター化していった。

 

じゃないと学校行かないぞ

その後モンスターは、私に鉛筆を投げつけ、ノートパソコンで叩き(最初投げようとしたけれど踏みとどまった)、タオルケットを振り回し、扇風機を倒し、いつもどおり大暴れした。

私は「絶対やり返さないよ」と言いながら、とりあえずサトイモをベッドに抑え込んだ。

「そんなことしたら、明日学校行かないからね!」

そこでようやく私も合点がいった。

学校に行きたくないために、

「ぼくの無理難題をきかないと、学校に行かないぞ!」

と脅しているのだ。

学校に行かない理由づくりをしているのか…。

ここまで大暴れするほど、学校に行きたくないなら、もう降参。

「そこまで学校が嫌なんだね。わかった、明日は学校行かなくてもいいよ」

「明日じゃない!これからずっとだよ!」

「ずっとかどうかは、先のことだからわからないじゃない? ひとまず明日は行かなくてもいいよ」

「でも、行かないといけないんだよ!学校には行かないといけないって、わかってるでしょ!」

いやどっちやねん!とちょっと笑ってしまった。

 

宿題もしないで平気、学校行かなくても平気だなんて、図太いな~、根性すわってるな~、と思っていたが、実は逆なのではないか。

宿題をしていないから、登校日が怖くてビビってるのでは!?

「行ければ行ったらいいし、嫌だったら休んでもいいし、とにかく寝よう」

「でも、でも…」

しばらくは涙目で、グズグズ言っていたが、

「起きてから考えたらどう? 起きてから、行けなかったら休む。台風も来てるし、休んでも大丈夫じゃない? 行けたら行く、それでええやん」

そんなやりとりを続けると、徐々に気が楽になったのか、モンスターが子どもに戻って、

「眠れないから、お薬をもう一つ飲む」

と自分から積極的に寝る体制をとった。

その後も、

「眠れないから、牛乳入れてきて」

といって牛乳を飲み、

「眠れないからお腹がすいた。卵焼きを作って」

とワガママを言った。

調子に乗るのもええ加減にせぇよ、と言いたいところをグッとこらえ、

「はいはい、卵焼きね、焼いている間、ベッドで待ってて」

と実際に卵焼きを作ったら、お皿に乗せた頃にはサトイモはすっかり眠りについていた。

 

早く学校に行く

翌朝、私たちが6時に起きると、サトイモはすでに起きて百ます計算をやっていた。

5時半に起きて勉強していたという。(でも、百ます計算は50マスどまりで、夏休み中学力が落ちたのか、かなり間違っていた。)

すこぶるご機嫌で、ヤル気満々。

キツネにつままれたようだけど、まあ、よかったよかった。

7時には用意が終わり、7時40分に家を出ようねと言っていたのに、20分ごろ突然に、

「じゃあ、Kくんを迎えに行ってくる!行ってきます!」

と一人で勝手に家を出ていってしまった。

まだ早いって!!

 

Kくんのおうちにご迷惑をかけるのではないか、と、私は慌てて服を着替えてメイクをして、自転車で追いかけた。

友達のKくんのマンションの下でサトイモを発見。

7時50分まで二人でKくんが出てくるのを待つ。

なぜか出てこないKくん…。

約束していたわけじゃないし、勝手に待ってたってさぁ…。

「お熱が出たとか、寝坊したとか、Kくんだって事情があるかもしれないよ」

と、先に学校に行こうと勧めるが、

「だったら、もう学校へ行かない」

とまたグズる。

「家でも学校でもどっちでもいいけど、とりあえず行こ」

と自転車の後ろにのせ、出発。

道の途中で、

「せっかくだから学校行こうよ。学校に向かうよ」

と言うと、

「わかった」

と了承してくれた。

学校の校門の下に着いても、サトイモは自転車からなかなか降りない。降りても離れない。

ああ、時間になったらまた学校に電話して、先生に迎えに来てもらうパターンか…、と諦めていたが、そこへ救世主が現れた。

同じクラスで、児童館でも一緒だったミイちゃん。

先日の夏祭りでも出会った女の子だ。

特に今まで仲が良かったわけでもなく、話しかけるわけでもなく、でも、静かにそばに立っている。

「ミイちゃんと一緒に学校行こうよ」

と言うと、サトイモもランドセルを背負った。

三人で歩き始める。

ミイちゃんがもうすぐピアノの発表会に出る話などを聞きながら歩く。

問題なく校門をくぐった。

校舎前まで来ると、立ち番の先生たちが出迎えてくれた。

ここまで来たら、もうお役御免。

夫から「行けた?」とLINEメッセージが届き、「なんとか行けました」と返した。

結果だけ言うとね。

 

幸せな人生よりも

子どもに暴力を振るわれると、つい泣いてしまう。

痛みというフィジカルな効果に、不幸を実感させられる。

自分の子どもが、他者を平気で傷つける人間になってしまったことが情けなくて、絶望的な気持ちになる。

こんなことが続くと、私自身が精神を病むのではないかと思ってしまう。

私はすっかり不幸な人生を歩んでいるなぁ、なんて不幸なんだろう、とさらに泣けてくる。

 

思えば、結婚するときに「幸せにします」だの「幸せになります」だのと世間様では言うけれど、私を「幸せにしよう」と言った人は誰もいない。

夫も、夫に挨拶された父も、私の幸せなどは考えていなかった。

確かに、「幸せかどうかは私が決めることであって、あんたらがどうしようもできないだろ」と私自身思っていた。

映画『イノセンス』で、バトーに「幸せか?」と尋ねられた素子は、「懐かしい価値観ね」と答えた。(田中敦子さんが亡くなって、すごくショック…)

いつか誰かに、「幸せか?」と聞かれたら、素子のセリフをパクろうと思っていたけれど、誰も私に尋ねてはくれない。

そんなだから、幸せからはどんどん遠ざかる。

 

今朝、家事をしながら、YouTubeで豪の部屋の小西克哉回を聞いていた。

youtu.be

最後のほうで、吉田豪大谷翔平にインタビューしたときの話をしていた。

野球にしか興味がない大谷と、野球以外にしか興味がない豪ちゃん。

それでもさすがプロインタビュアー、相当苦戦しながらも1時間お話ししたそうで、大谷の周りの人が「こんなに大谷さんがしゃべったのは初めて」と言ったそうだ。

大谷は本当に趣味がなく、会話のとっかかりがない。

野球以外に趣味もない、問題もない、失敗もない、ただただ完璧。

それを聞いた私は、「なんてつまらない男なんだろう!」と思ってしまった。

 

それに比べたら、サトイモはめちゃくちゃ。破天荒。問題を挙げればきりがない。

頭が良いのかと思ったら、百ます計算で7+9を26と書いていて、唯一の取柄である算数もできなかったら救いようがない。

暴力傾向が治まらなかったら、このまま社会のクズになってしまうかもしれない。

でも、完璧男より面白いのではないか。

そういえば、幸せな人生より面白い人生を、と願ったのは私自身だった。

不幸だと嘆くのはやめよう。