長いはずのゴールデンウイークは一瞬で終わった。
でも、サトイモはよく遊んだ。
大阪南港まで電車を乗り継いで行ったトミカ博。
少し歩いた先の公園や、郊外での遊び。
須磨離宮公園の子供の森アスレチック。
初めてのスーパー銭湯。
ビデオや配信で、『パウパトロール・ザ・ムービー』や『千と千尋の神隠し』をはじめ、たくさんのアニメも観た。
パパと一緒にレゴでたくさん作品も作った。
でも、発達支援教室の先生にゴールデンウイークで何が楽しかったかを尋ねられ、真っ先に答えたのは、
「じいじのうちに行ったこと」。
甘やかしの頂点
夫は毎日のようにサトイモに尋ねる。
「パパのこと好きな人!」
「は~い!」
律儀に手を挙げるサトイモ。
私は常に苦笑い。アホくさ。
そのあとに、
「ばぁばのこと好きな人!」
「じぃじのこと好きな人!」
と続くパターンもある。
当然全部、「は〜い!」
それで、じいじのどこか好きか、夫が尋ねたことがあった。
サトイモの答えは、
「じいじは何をしても怒らないから」
だそうだ。
確かに、うちの父は子どもを怒らない。
サトイモのことは当然怒らないし、私も怒られなかった。
いとこたちも、怒られたことはないと思う。
子どもにとってはいいけれど、親からしてみると甘やかしは必ずしもいいことではないし、ダメなことまで許容してしまうのはいかがなものか。
実家に行ってしばらくすると、サトイモは、
「お庭で遊ぶ〜。じぃじ、一緒に来てみ!」
と靴をはいて出ていった。
「じぃじ、こっち来てみ!」
「じぃじ、これ見てみ!」
その命令のしかた!
サトイモはどうやらじぃじは自分より下だと思っているようだ。
最初は私も庭にいたけれど、大丈夫そうなので、私は中に戻って仏壇の片付けなどをしていた(父が仏壇にお供えをするのはいいけれど、花は枯れっぱなし、リンゴは腐って青カビが生えていた)。
しばらくして、ゴロゴロしてスマホをいじっていた夫が、
「ちょっと静かすぎひんか? 庭から声が聞こえへんけど?」
と言う。
慌てて庭を覗くと、二人の姿が見えない。
「勝手にシニアカーで出かけたんやわ!」
しばらく待ってみたが、なかなか帰ってこない。
幼児と足の不自由な老人である。
父はスマホもサイフも持ってでていない。
途中で事故にでもあっていないか心配になって、
「ちょっと探しに出ようか」
と言うと、夫が、
「俺が探してくるわ」
と出かけてくれた。
それからまたしばらく時間が経ってから、3人が帰ってきた。
夫があちこち歩き回って、ようやく発見したらしい。
近所を散歩しているのだろうと思っていたら、なんと私が通っていた小学校のあたりまで行っていたそうだ。
「何も言わずに二人だけで出かけないで!何かあったときどうするの!」
と私が注意すると、
「へぇ〜、そうか」
と父は悪びれもしない。
「サトイモくんは、そっち行ったらあかんで、言うてもきかんからなぁ。でも、運転うまいわ」
父はきっとサトイモにやりたい放題をさせていただろうと想像がつく。
サトイモがゴールデンウイークで一番楽しかった、というのはおそらく、このシニアカーの運転だったのだろう。
何もかも許してくれるじぃじが大好きなのも納得だ。
会話がご長寿クイズ
よく、「他人の子はすぐ大きくなる」という。
たまにしか会わないから、会うたびに大きくなっているのも当然だ。
「こないだ生まれたと思ったのに、あっという間に大きくなったでしょう。赤ちゃんだったのが、気づけば立派な子どもになっちゃった。来年は小学校やで」
と私が言うと、父も、
「ほんまやなぁ」
と言った。
「親の私らですら早いなぁと思うんやから、お父さんからしたら、もっと短く感じるんじゃない?一瞬やったでしょ?」
「そうやなぁ。気がついたら満州やったなぁ」
…何の話いぃぃ?!?!
私は一瞬凍りついたあと、崩れ落ちてしまった。
「気づけば満州って、お父さん、いったい何に気がついたん?」
「それがわからんのや〜」
大木こだまひびきの漫才かよ!!!
「お父さん、ちゃんと補聴器つけてる?」
「つけとうで。ほら」
「聞こえ方はどう?」
「よう聞こえるで。毎日充電せなあかんのは、かなわんけどな」
ちゃんと聞こえてる??
すると、サトイモが、
「じぃじ、この歌しってる? ♪うぉー、はっふぇいでーえー、うぉーおー、りびのんぷれぃあー!」
と、夫の影響で最近気に入っているボン・ジョヴィの『Livin’on a Prayer』のサビを歌いだした。
「じぃじ、知ってる?」
「うん」
嘘つけ!
「じゃ、これは? ♪レディオがが、レディオぐぐ、レディオわっつにゅ〜」
今度はQUEENの『Radio GaGa』を歌い出し、また父に尋ねる。
「じぃじ、これ知ってるの?」
「うんうん」
嘘つけ!!
ほんまに補聴器聞こえてるのかよ!!
サトイモも、何を思って父に「これ知ってる?」「あれ知ってる?」と話しかけているのか意味不明だ。
でも、じぃじという無条件の愛情を注いでくれる存在がいることは、サトイモにとって良い影響があるように思う。
全肯定。
しわくちゃで、タバコ臭くて、とんちんかんでも、サトイモもじぃじが大好きらしい。