奇才サトイモの元気が出る発達日記

発達障害(ADHD&ASD)の疑いがある息子サトイモの子育て日記です。

節分と恐怖の鬼

 

昔読んだあるメンタルヘルスの本に、「床の間は日本人の知恵である」というような話があった。

床の間というちょっとした空間に、行事ごとのお飾りをしたり花を活けたりして、日常生活にうまく季節感を取り入れていた、という話だ。

メンタルを健全に保つのに、季節を感じることはとても有効なのだそうな。

現代社会はそれが失われつつあるから、昔の人の知恵を借りようという話だった。

 

子供を持ってよかったことの一つは、季節感を感じる機会が増えたことだ。

春になれば、桜の花びらを集めて遊ぶし、夏になれば水遊びを楽しむし虫も捕まえる。秋はドングリや松ぼっくりをひらって落ち葉を集め、冬は朝に日陰の氷を探してまわる。

自然だけじゃなく、幼稚園や児童施設は季節ごとの行事を欠かさない。

 

そういえば、かつて仕事が忙しくて毎日毎日残業していたときは、季節が変わっていたことにも気づかないような日々だった。

今も慌ただしくて目がまわりそうに忙しい日々だけど、季節の移ろいだけはしっかりと感じていて、だから心の平衡が取れているのかもしれないな、と思う。

 

鬼が怖い!

大人になってやらなくなる行事の代表は、節分の豆まきだろう。

せめて恵方巻と鰯くらいは食べるけれど、豆まきはやらない。ましてや鬼の面などかぶらない。

大人は。

 

一昨年から、うちでは豆まきをやるようになった。

豪快に豆を投げるのは、なかなか気持ちがいい。

掃除が大変だから、最初はビビって小袋のまま投げたりしてきたけど、一昨年、一度気にせず投げてみてからは衛生面を気にしなくなった。

床でホコリが多そうなところから拾った豆は、公園でハトにやることにしている。

幼稚園でも園庭で撒いて、掃除はハトに任せるらしい。

f:id:naminonamimatsu:20230215122810j:image

 

サトイモは豆まきが大好き。

けれど、家では鬼にぶつけるということをやってこなかった。

去年、サトイモは幼稚園の節分イベントで、鬼が怖くて泣いて逃げ回った。

お迎えに行ったときに先生がそう報告をしてくれたら、サトイモ本人は、

「ちがうんだよ、こけてケガしたとこが痛くて泣いたんだよ」

と言い訳した。

「こけたん昨日やんか」

と私は笑った。

 

サトイモは相当鬼が怖いのである。

いっとき、親の言うことをきかせるために、「鬼から電話」というスマホアプリをダウンロードしていたことがあった。

「鬼に電話しよか!!」

と脅すだけで、実際にかけたことはない。

ちらつかせるだけで、

「やめて!かけないで!」

と泣いて逃げるからだ。

とはいえ、泣くばかりで、結局やるべきことをやるようにはならないので(着替えるとか歯を磨くとかベッドに入るとか)、意味がないのでアプリはアンインストールした。

 

鬼を呼び出すまでもなく、私も鬼のように怒る。

怒られるのが恐ければ言うことをきくかもしれないと思って、できるかぎり恐く怒る。

が、結局泣いて泣いて、パニックになって、余計に制御不可状態になる。

ほんと、何をどうやったらサトイモを私のコントロール下におけるのだろう。

 

ファンタジーに生きる

幼稚園であまりビビるのもよくないし、恐怖のあまり鬼役の先生を攻撃しても困るので、

「幼稚園の節分の鬼は、実は園長先生か体操の先生か園バスの運転手さんがお面をかぶってるだけだよ。だからそんなに怖がらなくても大丈夫」

と教えておいた。

私が思っていたより、それが安心だったようで、日が近づくにつれ、

「幼稚園の鬼は怖くないよ、だって先生がお面かぶってるだけだもん!」

と毎日自分に言い聞かせていた。

 

それで幼稚園ではつつがなく節分が過ごせたようだが、盲点は発達支援教室だった。

発達支援教室でも節分イベントがあったらしい。

お迎えのときには毎回先生からその日の出来事を報告してもらうのだが、

「お面をつけて出ていった瞬間、サトイモくんの顔がすごく引きつって、すぐに隣の部屋に走って逃げました。あんなサトイモくんの表情、初めて見ました」

と教えてもらった。

 

もう一人の先生が、

「さっき作った豆で鬼をやっつけようよ!」

と声をかけると、お友達と二人で新聞紙を丸めて作った「豆」を鬼にぶつけた。

ビビリながらも勇気を出して、必死で豆を鬼に投げつけ、なんとか「撃退」。

 

本人いわく、

「幼稚園の鬼は先生がお面をつけただけやけど、教室に来た鬼は本物やった。けど、ぼくがやっつけた」

ということらしい。

とりあえず、そういうことにしとこか。

 

家庭での節分

節分の夕食は、注文しておいた恵方巻

スマートウォッチにコンパス機能がついていることを思い出し、恵方である南南東を測った。

 

恵方巻は食べ終わるまでしゃべらないんだよ〜」

と教えると、サトイモは突然何かを思いつき、慌ててゴソゴソし始めた。

そして出来上がったのがこれ。


f:id:naminonamimatsu:20230215122943j:image

「何これ?」

「『し』だよ!黙食できるようにね!ナンナントーでしょ!」

なんと、マスキングテープで、南南東の壁に「し」(シー)の文字を作ったのだった。

しかも2箇所。(自分の席からと私の席から。)

大人には理解できない発想だ。

 

そしていざ食べ始めると、しゃべらないだけではなく目もつぶって食べるサトイモ

まだかぶりつく前だった私が、

「目は開けていいんだよ」

と言っても聞いちゃいない。

ヘレン・ケラーかよ。

 

夫が帰ってくるのはたいていサトイモの就寝時間で、この日も、

「もう寝なさいよ」

と言っていたら帰ってきた。

玄関が開いて、入ってきた夫に、ふと私のイタズラ心が芽生えた。

 

夫にそっとお面を渡し、リビングのドアを閉めて、

サトイモ!やばい!パパやと思ったら鬼やった!!」

と伝えた。

サトイモの表情がサッと凍りつく。

とっさに逃げるサトイモ

鬼のお面をつけた夫が、

「悪い子はどこや〜」

と入ってくると、超速でソファの後ろに隠れた。

「そこかぁ〜!」

クッションで頭をガードし、震えながら身体を丸める。

 

あんまり必死なので、

「うそうそ、パパやで」

と夫が種明かしをしたが、クッションで頭を守っているサトイモには届かない。

サトイモ、パパやんか、出ておいでよ。ごめんごめん、ママが悪かったわ」

と私が取りなすと、

「もぉ~!びっくりしたよぉ〜!」

とようやく出てきた。

 

何歳まで鬼を信じるのかわからないが、「本当の鬼の正体は人間」という世知辛い世間を知るまで、純粋な子供時代を過ごしてくれたらうれしい。