サトイモの幼稚園では、2月に音楽会がある。
お正月明けに担任と話したときは、
「音楽会の練習がんばってます。良い意味で目立つことなく過ごせています」
と言われていた。
去年もハンドベルがやりたかったけれど、当時の担任から、「サトイモくんには無理なので〜」と鼻であしらわれ、やらせてもらえなかった。
ハンドベルは1人1音か2音を担当する楽器。
ほかのメンバーとタイミングを合わせなければ演奏できないからだ。
「今年はハンドベルなんだって?!よかったねぇ〜!」
と喜んでいたのもつかの間。
その10日後には、
「音楽会の練習に全く参加できていません。出ていくだけではなく、奇声を上げて走り回ったり、がんばっているお友だちの邪魔をしたりするので、補助の先生に一人ついてもらわないといけない状況です」
と、問題が炸裂していた。
よくよく聞くと、こういう事情が見えてきた。
まず、練習に飽きてきたサトイモが練習をサボって脱走するようになる。
音が欠けるとメロディにならないので、担任はサトイモのハンドベルを代役の子に担当させた。
サボればサボるほど代役の子が上手くなる。
サトイモがお部屋に戻ってきたとき、代役の子がソツなく演奏し、先生から褒められていたところだった。
その様子を見たサトイモは、黙ってまたクラスのお部屋を出ていってしまったという。
結果、サトイモはハンドベルの練習をしなくなり、代役の子が本担当になった。
サトイモはハンドベルを降ろされて、担当楽器は鍵盤ハーモニカに変えられた。
サトイモは、希望していない鍵盤ハーモニカにさせられて、練習をがんばれるわけがない。
結局、ますます練習には参加しなくなった。
「これ以上練習に参加しなかったら、音楽会には出られないよ」
と担任が言っても、
「そんなこと言っても、どうせ出してくれるでしょ」
と口答えする。
楽譜すら、要らないと言って受け取らなかったらしい。
「立つ位置の段取りとか、曲順とか、そういうのも全部覚えないといけないのに、練習に参加できてないので。このままでは本当に音楽会には出られません」
と先生から連絡をもらい、いろいろ考えた。
あの手この手
私の作戦は達成表作戦。
練習に参加したら、担任にスタンプを押してもらう方式だ。
ところが、1日目から、渋々その場に出てきただけで、
「ハイ1回クリア〜」
というサトイモの態度に、
「それは違うよ!」
と担任から表作戦失敗のダメ出しを食らった。
「このままだと、本当に音楽会に出られなくなっちゃうよ。サトイモの本当の気持ちはどうなの?音楽会、出たい?出たくない?」
と私が尋ねると、
「出たい」
と答える。
家ではキーボードで練習もしている。
なのに、幼稚園での練習は参加しないのだ。
表作戦が失敗したことも振り返る。
サトイモは決して罰では動かない子どもだ。
「練習しないと音楽会には出られません」
→「音楽会に出られないのは嫌だ」
でも、それは決して、
「音楽会に出たいからがんばろう!」
という前向きな気持ちではない。
嫌だから渋々やるのは仕方ない。
本来、音楽は楽しいものなのに、なんだか私がウンザリしてきた。
そんな音楽会なら出んでええわ!
という気持ちになる。
発達支援教室の先生に相談すると、
「えっ、ハンドベル下ろされてたんですか?あんなにハンドベルになったって喜んでたのに〜!楽器を変えられた時点でサトイモくん心が折れちゃったんでしょうね…。幼稚園の先生も、その時点で相談してもらえたらよかったのに。ここまでこじれると、簡単には音楽会に気持ちが向かないんでしょう」
と一緒に悩んでくれた。
「サトイモくんは音楽会で自分の居場所が見つけられないんでしょうね。例えば、曲のタイトルの‘めくり’をやるとか、何かの合図をするとか、特別な役割を与えてもらったら、やる気が出るんでしょうけど」
そしてわざわざ、発達支援教室から幼稚園に連絡を取ってくれたらしい。
でも、教室の先生が提案するような役割を採用するのはなかなか難しくて、苦肉の策で、
「この部分、サトイモくんだけ、特別にこの和音を弾かせてあげよう」
ということにしてくれた。
サトイモも、「特別な和音」が気に入って、ようやく練習に参加し始めた。
が、音楽会まで、予行演習を含めてあと4日。
果たしてサトイモは音楽会に出られるまでになるのか?!
まさかのコロナ
…と言っていた矢先。
2月11日の夜にサトイモが発熱。
翌日から40℃を超える高熱。
13日、私も発熱。
二人して内科を受診したところ、コロナウイルス陽性であることがわかった。
現在も絶賛療養中だけれど、今朝からようやく平熱になったところ。
あんなにスッタモンダした音楽会は欠席だ。
「コロナだから仕方ないね」
という言い訳ができて、よかったような悪かったような。