ちょっとさかのぼって、知能検査の結果面談のときの話。
面談には、幼稚園の先生も同席してくれることになっていた。
面談の前日サトイモに、
「明日は幼稚園の担任の先生も来てくれるからね」
と言うと、
「あ〜あ、またケンカだよ~」
と大げさにため息をついた。
「誰と誰が、なんでケンカするのよ?」
と詳しく尋ねると、こういう話だった。
去年も、発達検査の結果面談のとき、担任の先生が同席してくれた。
平日だったので、私やサトイモはもちろんだけれど、担任の先生も園を抜けて来てくれた。
面談は午前中で終わり、午後登園したとき、サトイモがクラスの友達たちに、
「午前中どうして先生がいなかったかというと、ボクとハーバーランドへ行っていたんだ」
と自慢したらしい。
クラスメイトたちは嫉妬に怒り、ケンカになったという。
面談があった教育センターは確かにハーバーランドにあるけど、そんな言い方したら遊びに行ったのかと勘違いしてしまう。
やれやれ。
「大丈夫、今年は夏休み中だからそんなことにならないよ」
と言ってもサトイモは納得しない。
だいたい、言わなかったらいいだけなのだ。
「ほかの子には黙っとけばええやん」
と当然の提案をしても、
「言いたい」
と言う。
自慢しぃめ。
もう、ケンカでもなんでもすれば!と思っていたが、当日、来てくれたのは担任の先生ではなく副園長先生だった。
サトイモは少しガッカリした様子だったが、副園長先生こそ、入園時からずっとサトイモを見守ってくれた人だ。
副園長先生のエピソードトーク
面談中、サトイモの普段の様子だとか、印象に残るエピソードなどを教えてくれた。
新しいスピーカーを買って先生たちみんなが接続方法に困っていたところ、職員室にやってきたサトイモが、
「ここにUSBの穴があるから、指したらいいんだよ」
と教えてくれてビックリしたこと。
園庭で一人、ずっと空を見上げていたので、
「何を見てるの?雲かな?」
と先生が尋ねると、
「どうして幼稚園には避雷針がないの?」
と答えたという。
副園長先生が、建築時にきいた、ここの園舎は周りの建物より低いため、避雷針設置の必要がない、という知識をサトイモに教えたこと。
「ほかの子とは視点が違うというか、ビックリするような問いかけがあって、こちらも勉強になります」
と言ってくれた。
でも、良いことばかりではない。
年長さんになってしばらくはクラス活動にも参加できていたけれど、だんだんクラスを抜け出す回数が増え、しょっちゅう職員室に遊びに来るらしい。
その理由を私達大人がよってたかって分析する。
- クラス活動が退屈になると、ガマンがきかなくてウロウロしてしまう。
- クラスの空気から抜け出して、気分転換したい。
- 子ども同士だと忖度してくれないが、大人(先生)たちは自分の話を聞いてくれるし、自分に合わせてくれるので居心地が良い。
加えて、最近は年少クラスに出入りすることも増えた。
というのも、年少クラスに副園長先生がサポートに入っているため、脱走したサトイモを副園長先生が年少クラスに呼び込んだのがきっかけだ。
「お兄さんとして、カッコいい年中さんになるにはどうすればいいか、みんなにお話をしてください」
とお題を与えられ、サトイモはひとしきり演説をぶったそうだ。
「みんなはちゃんと一人でトイレに行けていますか?」
とか、
「道を渡るときは右左右を確認して、手を挙げて渡りましょう」
とか、
「お話を聞くときは、おイスに座って静かに聞きましょう」
とか、「おまえもな!!」のオンパレードで、笑ってしまう。
年少さんにはマウントを取れるから、過ごしやすいんだろう。
プライドの高さが恥ずかしい。
面談の後日、サトイモは担任の先生にこんなことを言ったらしい。
「先生、どうしてハーバーランドへ来てくれなかったの? おそとで先生と会える特別な日だから楽しみにしてたのに、残念だったよ。しかたないから、副園長先生でガマンしたけどね」
おいおい、副園長先生がこんなにお世話してくれてるのに、なんて言い草だよ!と呆れてしまった。
幼稚園じゃないところに行く
幼稚園の先生方には、最大限配慮してもらっていると思う。
ほかの園ではどうなのか比較できないからわからないけれど、これで文句を言ったらバチが当たると私は思っている。
それなのに、サトイモは些細なことで癇癪を起こし、先生方を困らせている。
手摺りによじ登るのをいくら注意されてもやめないし、園庭の柵を乗り越えようとするし、毎日余計なものを幼稚園に持っていってはトラブルを起こしている。
そして注意されるごとに、
「もう今の幼稚園行かない。別のところへ行く」
と言う。
それに対して私は、
「今行ってる幼稚園ほど良いところはないんだよ!」
とか、
「今の幼稚園以外、あんたに選択肢はないんだよ!!」
などと、ついカチンときて言ってしまうが、一度ゆっくり尋ねてみた。
すると、サトイモが言う「別のところ」とは、別の幼稚園や保育園、託児所、という意味ではないらしい。
はっきりとしないが、公園のような自然のテーマパークのような場所で、想像上のパラダイスのような場所へ行くと主張するのだった。
それって、寺山修司が詩に書く「ここではないどころ」ってことかな。
悩めるすべての人が漠然と持つ、「ここではないどこかへ行きたい」という願望。
人生はずっと、「ここではないどこか探し」なんだけどな、とサブカルママは思う。
ここではないどこか。
そこに本当の自分がいる気がする。
けど、実は自分は探すものではなく、作るものなのだよ、と心の中で思う。
サトイモは「ここではないどこか探し」のスタートに立ったばかりだ。
幼稚園に行かない、といいつつ、私が作るルイボスティーより、
「幼稚園の麦茶が一番美味しい」
らしいし、こだわって購入している低温殺菌牛乳より、
「給食の牛乳が好き」
と言う。
なんだよ、幼稚園大好きなんじゃないか。