奇才サトイモの元気が出る発達日記

発達障害(ADHD&ASD)の疑いがある息子サトイモの子育て日記です。

シニアカー試乗会

とうとう父が、自動車を手放した。

高齢者の自動車事故が社会問題になる中、父には何年も前から運転をやめるように言ってきたのが、ようやくの実現でホッとしている。

 

夏、母の逝去で自宅と病院や葬儀会館を車で何度も行き来しなければならなかったとき、父の運転は相当危なかった。

サトイモが生まれる前は毎週介護のために実家に帰っていたが、当たり前のように父の車に乗せてもらっていた。

そのときさほど問題なかったのに、約5年で相当モウロクしたというわけだ。

たった5年で、という気がしていたが、考えてみればこの5年で父は70代から80代になった。

単なる数字の区切りではなく、違いはかなり大きいようだ。

 

車がなくなると、病院受診やお買い物などお出掛けに困る。

それで、電動車椅子というか、シニアカーに乗ることになった。

スズキのセニアカーという電動車。

ET4D | スズキ

 

最初は購入を検討していたが、ケアマネさんに相談すると、介護保険でレンタルできるという。

ただ、購入と違うのは、レンタル開始までに福祉用具業者さんの指導があり、安全に運転できることがわかってからの導入だということ。

「娘さんにも使い方の説明を聞いていただいてから」

というので、11月26日土曜日、試運転に付き合うことになった。

 

シニアカー大好き!

シニアカーの導入を一番喜んだのはサトイモである。

街でシニアカーを見かけるたび、

「じいじ、あれにのるんだよね!」

と楽しみにしていた。

 

サトイモはコンセントが大好き。

電源コードが大好き。充電が大好き。

毎日、延長コードとUSBケーブルを張り巡らせ、古いモデムにモジュラージャックやイーサネットケーブルを繋いで遊んでいる。

電源がつながると小さいランプがつくし、カチッとはまるのが楽しいのだろう。

 

コンセントで遊ぶのが危ないのはわかっている。

でも、どんなに注意したところでやめないし、高い棚の奥に片付けても片付けても、クローゼットによじのぼって出してくるのでもう諦めた。(もちろん棚にのぼるのをやめろと言っても聞くわけがない。)

感電したらそれがサトイモの運命だと思っている。

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「5さいのおたんじょうびには、USBつきのエンチョーコードをかってね!」

十分持ってるだろ!と言いたいが、まだ足りないらしい。

ていうか、誕生日プレゼントがそれでいいのか?!?!

 

シニアカーは電気で走る。

家からコードを這わせてガレージで充電することになると聞いて以降、サトイモは本体以上に充電を楽しみにしていた。

 

福祉用具業者がやってきて、操作の説明を聞いてもワクワク。

コンセントの場所確認に延長コードを伸ばしてきてワクワク。

「ここにコンセントあるよ!ぼく、リュックにエンチョーコードもってきたよ!」

孫がそれだけ喜んでいるのを見て、父もシニアカーに好印象を持ってくれたと思う。

 

しっかり操作説明を聞いて、いざ、いつものセブンイレブンまで試運転!

というところで、父は、

「だいたいわかったからもうええわ。帰ろう」

と言う。

事前に、普段のお出掛け先まで業者さんと一緒に行ってみて、安全確認をしてからのレンタル開始だと伝えていたはずで、

「この日はセブンイレブンまで行ってみるよ」

と何度も言ったにも関わらず、意図が伝わらない。

 

ただ、こういうときサトイモは使いようで、

「じいじ、いっしょにぼうけんしようよ!ぼくいきたいよ!」

サトイモが言うと、父は言うことを聞いてくれるのだった。

 

一人乗りのはずが

問題は、サトイモシニアカーに乗りたがることで、

「今日はじいじの練習だから、また今度ね」

となだめながら歩いた。

サトイモが、

「ふたりでのったらダメなの?」

と業者のおじさんに尋ねると、

「ごめんね、これは一人乗りやからね」

と断られる。

 

最初はそれでも、シニアカーについて歩くだけでサトイモは満足していた。

見知らぬ田舎道を歩くだけでも、サトイモにとって冒険なのである。

「ダイコンがうわってるよ」

「いっぱい柿がなってるね」

「用水路は藻がいっぱいだ」

 

ところがしばらく歩くと、

「おなかがいたくなってきたよぅ。あるけないよぅ」

とゴネ始めた。

「おなか痛くなってきたの?あら大変」

と私は一応反応するけれど、単なる甘えで、乗せてくれアピールなのはわかっている。

しょうがないので、最初は私が抱っこして歩き、少ししたら歩かせ、また抱っこして、を繰り返した。

私がヘトヘト。

 

セブンイレブンまでは2キロ弱。

半分くらい来たあたりで私も限界。

「いい加減に自分で歩きなさい!歩けるでしょ!」

「あるけないよぉ!」

サトイモが座り込んでゴネていると、父が、

サトイモくん!こっちこっち!」

と自分の膝を叩いて呼んだ。

思うツボの展開に、サトイモが飛んでいく。

業者のおじさんも、もう「一人乗りですよ」などというかたいことは言わなかった。

 

最悪のコンビ

遊園地などにある、200円を入れたら動くバッテリーカーがサトイモは大好き。

シニアカーは似たような乗り物であるうえ、コインを入れなくてもよいし、道を自由に行けるのだから、より楽しいにきまっている。

 

でも、シニアカーは遊具じゃないし、そもそも父の試乗なのだから父が運転しなければ意味がない。

何度も何度も、うるさいほど二人に言い聞かせた。

それなのに、ちょっと目を離すとハンドルを握っているのはサトイモで、父は手を離している。

サトイモ!運転しない!ハンドルから手を離しなさい!ウインカー出さない!お父さん!ハンドル離さないで!自分で運転して!何のための試運転やと思てんの!!こらサトイモ!ウインカー出すな!」

何度も何度も私が怒鳴り散らすはめに。

 

「お母さんはそう言うけどな、ハンドル握ったらサトイモくんが手を払いのけるんや」

とニヤつきながら父が言う。

「自分の娘のことお母さん言うな!」

父にとっては私は、娘というより孫の母でしかなくなっている。全く腹立たしい。

 

サトイモくんは運転うまいから大丈夫や」

「そうだよ、ボク、うんてんじょうずなんだよ〜」

サトイモくんは賢いなぁ」

目の中に入れても痛くないとは本当に父の態度で、サトイモの運転で横転して死んでも本望だろう。

 

「すみません、父が運転しないといけないのに…」

と私が謝ると、業者のおじさんは、

「まあ、これまで車を運転されてたんで、操作に関しては問題ないと思います。運転だけやなくて、坂道の走行とか、道路の舗装に問題ないかとか、交通量が多いかどうかとか、そういうところをチェックするんが目的ですから」

と苦笑いで言った。

 

父がシニアカーで出掛ける先には、コンビニのほかに脳外科と皮膚科、散髪屋がある。

あと3回、それぞれの行き先に同行してからのレンタル開始なのだそうだ。

父は乗っているからいいけれど、徒歩で同行する福祉用具業者さんの仕事のハードさよ。

 

さよならN-ONE

ゆっくりゆっくり時速4キロ。

セブンイレブンから自宅に戻ると、ホンダの担当者が来ていた。

20年来、うちを担当してくれた担当者である。

父が車を引き取ってもらうために呼んでいたのだった。

夫に言わせると、

「ホンダに引き取ってもらうより、中古車業者に売ったほうがなんぼか高く買うてくれるのに」

とのことだったが、まあ仕方がない。

洗車どころか、中の掃除もしていない、タバコの灰が散らばったままのN-ONEが引き取られていった。

 

「免許してシニアカーに乗ることになったんです」

自動車保険も車検も修理も全部その担当者にお願いしていたので、彼からすると顧客を一人失ったわけだが、担当者は残念がりもせず、

「安全のためにはそれがええですわ」

と言った。

おそらく、ホンダも父のことを危なっかしく思っていたのだろう。

この春、サイドミラーをぶっ壊すほど左側をこすり修理したばかりだったが、引き取られていくN-ONEはあちこちこすって傷だらけだった。

 

父がこの車を買ったとき、私が、

「顔がサルに似てるよね」

と言うと、父がムッとして、

「誰でも歳とったら、目がくぼんでサルみたいになってくるんや」

と言ったのを覚えている。

「お父さんのこと違うよ!車のことやん!」

私はゲラゲラ笑った。

さよなら、おサルさんみたいなN-ONE。

 

車が行ってしまったあと、父がキョロキョロして、

「あれ?!シニアカーは?」

と聞いた。

福祉用具業者さんが持って帰ったよ」

「なんでや!!!」

父はその日からレンタルが始まると思っていたらしい。

そのために同日にホンダを呼んでいたのだった。

「病院とか、全部の行き先まで試運転してからのレンタルやって言うたやん!」

「そんなん知らんかった!ほんならいつから乗れるんや!?」

 

ヘルパーさんから、最近物忘れがひどくなったようだと話は聞いていた。

試乗会の日も最初間違っていたし、試乗の目的も何回か説明したはずなのだけど、ボタンの掛け違いが多い。

モウロクが加速している気がするし、以前からそうだった気もする。

 

その後、福祉用具業者さんとケアマネさんの付き添いで全部の試乗を終え、無事にシニアカーがやってきたそうだ。

シニアカーはおそい。めちゃくちゃさぶい」

と父からメールで報告が来た。

折からの寒波。不運な人だ。


これまで、父に関する最大の心配は車を運転していることだった。

これでまたひとつ、私の憂いが減った。