夫が日本海まで泊りがけで釣りに出かけるという。
その間、私とサトイモは二人で私の実家にお泊りに行く予定を組んだ。
8/11に帰り、12日はまるまる過ごし、13日の夕方、夫に車で迎えに来てもらって墓参りをしてから神戸へ帰る。
なんかお盆らしいかんじ?
お昼ご飯を食べ終わってから、さあ、出発しようかという段になって、サトイモの例の病気が出た。
玄関に積まれる荷物の山。
いつものリュックサック、大きな紙袋が2つ、1リットルペットボトルに水道水を入れたもの、そして植木鉢。
「あのね、植木鉢は持って行けないわ」
「どうして?」
「どうしてって…。あと、ペットボトルを持っていかなくても、ママがお茶用意してるし、じいじの家でも水道は出るから」
「でも暑いから1リットルくらいすぐ飲めるでしょ」
「飲める飲めないじゃなくて、持って行く必要がないんだって。荷物になるからやめよう」
「なんで?」
ずーっと平行線。
「いっぺん全部持ってみ?」
「ほらね、ちゃんと全部持てるでしょ」
「持ててるけど、植木鉢の葉っぱがグチャグチャになってるよ。かわいそうよ」
「ほんとだ。ママの言う通りだね。植木鉢はやめよう。ペットボトルも置いとく」
と、ここまでは順調だった。
次はぬいぐるみ。
紙袋の中に、持っているぬいぐるみのほとんどが入っていた。
「これはちょっと多すぎるわ」
「お泊りするからお友達がいないとさみしいよ。寝られないよ」
「さみしいのはわかるけど、せめて3人くらいにしない?」
「嫌だ、そんなの選べない!」
「リュックに詰められるだけ連れて行くことにしようよ」
かなり渋ったけれど、これもなんとか了承。
そしてその次、おもちゃと文房具が難関だった。
「貯金箱は持っていかなくてもいいんじゃない?使わへんやろ?中身だけ財布に入れたら?」
「ダメ!持っていかなきゃダメ!」
「絵本はじいじの家にもたくさんあるから、持っていかなくてもいいよ」
「お気に入りだからこれじゃないとダメ!」
「目覚まし時計もじいじの家にあるからいらないよ」
「ほんとにいる?使えるかどうかわからないでしょ!」
「使えるって!色鉛筆もハサミもテープもホチキスも、じいじの家にあるって!」
「嫌だ!持って行く!」
だんだん理屈が通らなくなってくる。
交通手段の発狂
「あのね、車で行くんじゃないんだよ。電車だよ?荷物が多いと大変やし、お盆で電車が混んでたら、大きい荷物は迷惑になるんやから」
「そんな混んでるわけないでしょ。混んでも誰か席を譲ってくれるでしょ」
「世間様をなめとんのか。前に駆け込み乗車して、咳込みすぎて電車内で吐いて、そのとき誰も助けてくれへんかったやろ?席も譲ってくれへんかったの覚えてない?子どもが吐いとっても、みんな知らん顔やったやろ?」
「そりゃあ、吐いてる子には席は譲らないでしょ」
…自分の事なのにどういう認識?!
「じいじの家までどれだけ移動しなきゃいけないとおもってるの?元町駅まで歩いて、電車に乗って、バスに乗って、降りてからまた歩いて。荷物が重かったら大変やで」
「バスに乗る?なんで?」
「姫路駅からバスに乗るやんか」
「何ウソついてるの?バスになんか乗らないよ」
「バスの時間が合わなかったらタクシー乗ることもあるけど、今日はバスに乗るよ」
「なんで?なんでそんなこと言うの?バスになんて乗らないでしょ!」
「乗るよ」
「じいじの家に行くのにバスになんて乗らないよ!どこに連れて行こうとしてるの!遠くなってるやん!おかしいでしょそんなの!!」
サトイモは突然、泣きわめき出した。
何かのスイッチが入ったように。
「だったらGoogleマップのストリートビューで見せようか?スマホ見る?」
と私が提案しても耳を貸さない。
Googleマップもストリートビューも、サトイモにはそれが何か理解できない。
スイッチが入ってパニックモードに入ってしまった。
「早く行こうよ!全部持って行くよ!なんで行かないの!早く、早く行かなきゃダメだよ!じいじんちに行かなきゃダメだぁ〜!!」
「荷物を持って行くなら行かないよ」
という私に、サトイモは、
「そんなこと言うなら、おうちを壊すよ!」
と買ったばかりのサイドテーブルを投げ、イスを倒してまわり、クッションを振り回してテレビを壊そうとした。
その時点では私はまだ冷静で、
「そんなことしないで。テレビを壊されたら困るよ」
と柔らかく制止していたのだけど、サトイモが図書館から借りてきた本を破ろうとしたのには、カッとなって、
「ええ加減にせぇ!!それは自分のもんちゃうやろ!!」
と本を取り上げてサトイモを叩いた。
そこからサトイモがさらにおかしくなった。
私に殴りかかってきたので、揉み合いになる。
サトイモは平気で殴ってくるし、蹴ってくるし、物を投げつけてくる。
それを私が組み伏せる。
昔3ヶ月だけ習った合気柔術の技が少しだけ役に立つ。なんでもやっておくもんだ。
あまり腹が立つし、これ以上やったらお互いケガをしそうだったので、サトイモの荷物を全部持って玄関から出し、
「そんなにじいじの家に行きたいんやったら、一人で勝手に行け!この家から出ていけ!!」
とサトイモも引きずり出して玄関の鍵をかけた。
閉め出された子ども
さて。
あなたが親から閉め出された子どもなら何をするだろうか。
泣いてしゃがみこむとか、公園など別の場所へ行って気を紛らわせるとか?
けれど、サトイモはそんな大人しくはない。
サトイモは、最初、玄関のドアをドンドン叩いたり、体当たりしたりしていた。
けれど、それでは効果がないと悟って、何やら作業を始めた。
しばらくして、玄関ドアを硬いもので殴る音、ぶつける音がし始めた。
最初は何を使っているのかわからなかった。
あとで判明したことには、ドアの緩衝部品。
普段、床についているキノコ状のゴム製部品だ。
知らなかったけど、ひねるとネジで外せるようで、サトイモはそれを取って、投げつけたり、ハンマー的に打ち付けたりし始めたのだ。(画像の奥にあるやつ)
金属と金属がぶつかるので、まるで工事のごときすごい音。
出ていくかどうか迷ったけれど、どう対処するのが正解かわからずに、しばらく知らん顔をしていた。
やがて、金属製のドアは傷がつくだけで効果がないと悟り、次はインターホンを叩き壊そうとするのがドア越しの気配でわかった。
さすがにインターホンを壊されるのは困る。
仕方ないので、
「もうやめて。中へ入り」
とドアを開けた。
サトイモはサンダルを履いたまま家に駆け上がってきて、ベッドに飛び込んだ。
「履物は脱いで!」
また放りだしてやろうかと思ったけど、こちらが降参。
玄関ドアには、画像のような悲惨な傷がついてしまった。
その日は結局、実家に帰るのをやめた。
夏休み以降、サトイモが暴れ出すことが増えた。
体力的にもう負けそうで、将来の家庭内暴力を想像して泣くしかない。