先日、サトイモを連れて神戸アンパンマンミュージアムに遊びに行った。
一緒に行ったのは、児童館のすこやかクラブで一緒だったかおりちゃんとそのママ。
かおりちゃんはサトイモとは違う幼稚園に通っているけれど、それまでは一番のお友達だった。
最も家が近い同級生であり、最初にできたお友達として、今でも仲良くしてもらっている。
初めて会った頃、かおりちゃんは人見知りが激しく、ママにしがみついて離れなかった。
大変な内気さんで、顔をママの胸にうずめて外が見られなかった。
他人の顔を見ると涙目、もしくは泣き出す。
それが、なぜかサトイモには懐いて、サトイモのあとにひっついて遊ぶようになった。
縦横無尽に動き回るサトイモを追いかけるうちに、ママから少しずつ離れて、他人と接することができるようになった。
場所見知りも激しくて、トイレが怖くて近づけなかったけれど、サトイモが平気で児童館のトイレに入るので、ついて入るまでになった。
(サトイモはむしろ、家ではない知らない場所のトイレで用を足したがる。犬のマーキングみたいなもん?)
幼稚園に入るまで、かおりちゃんママは幼稚園生活をすごく心配していた。
極度の人見知りが炸裂しやしないかと。
けれど、入ってみればたくさんの友達もでき、先生ともうまくやれているようだ。
トイレトレーニングだって、かおりちゃんママは深刻に悩んでいたけれど、今となったらウソのよう。
過ぎてしまえば、なんてことはない。
子育てって、悩みがやってきては過ぎ去る、その連続なんだなぁ、と思う。
過ぎ去らない悩み
しかしサトイモの問題は過ぎ去らない。
特に、「一人で勝手に行ってしまう」問題は健在。
それどころか、ますますひどくなっている。
「ぼくひとりでできる」
という自信がついたのと、
「ぼくひとりでやりたい」
というチャレンジ精神から、どんなに大人と一緒じゃないと危ないよと止めても気にしない。
アンパンマンミュージアムでも、勝手に走っていってしまって、何度も見失った。
かおりちゃんがその度に走って追いかけてくれて、どんなに助かったことか。
神戸のアンパンマンミュージアムには、バイキン秘密基地という別会場があって、本館より狭い。
この狭さなら大丈夫だろう、と気が緩んでいたら、やはり見失った。
同じような年頃の子どもが多すぎるのだ。
かおりちゃんも自分の遊びに夢中でサトイモとは別行動。
しばらく探し回っていたら、サトイモの姿を発見。
なんだ、いたのか。
と、ホッとしていると、係のお姉さんから声をかけられた。
「お兄ちゃんのお母様ですか? 先ほど一人で外に出られて、また戻って来られました。目を離さないようお願いいたします」
いないと思ったら、勝手に外に出てたなんて!
ビックリしつつ、平謝り。
そしてアンパンマン世代にはサトイモが「お兄ちゃん」扱いされることにも驚く。
ミュージアムを出てから、子どもたちがトランポリンをやりたい(もちろん有料遊具。一人1回400円)というので、チケットを買うために並んでいたら、サトイモは待ちきれず走っていって勝手にトランポリンに入ってしまった。
当然、係のお兄さんに止められ、強制退場させられた。
やれやれ。
どうにも楽しくなってしまって、衝動が抑えきれないらしい。
トランポリンを出たあとも、かおりちゃんが靴を履いているのが待ちきれず、波止場に大きな観光船が入港してきたのを見つけると、船に手を振りながら追いかけていってしまった。
慌てて私も追いかけたけれど、速い速い。
波止場は岸壁に近づくと海に落ちる可能性があるので、放っておくわけにいかないから、私も必死で追いかける。
結局、モザイクの端から端まで走らされた。
その後も、勝手にメリケンパークまで走っていき、帰り道も遠回りするなど、散々だった。
何度も迷子の可能性を感じつつ、ギリギリで捕獲。
ミラクルキャッチ。
とうとうお巡りさんにお世話になる
意外なところで、とうとうサトイモが迷子になった。
幼児教室からの帰り道、サトイモが、
「地下を通りたいよ」
と地下鉄県庁前の階段を降りようとした。
もちろん、地下鉄には乗らない。
ただ、雨降りや強風、極寒の日に地下を通ることがあって、サトイモは地下道を気に入っていた。
ただ、この日、私がガンとして、
「今日は通らないよ。ママは絶対にそっちは行かないからね!」
と突っぱねた。
「じゃあいいよ。ぼく一人で行く」
サトイモは一人で階段を降りて行ってしまった。
絶対に行かないと言った手前、追いかけるかどうかしばらく迷い、戻ってこないことを確信してから追いかけた。
地下に降り、直線の道でサトイモが走る背中が見えた。
少し先の出口で曲がった。
いつも使う階段の出口だ。
出たら追いつくだろうと思ったのが間違いだった。
地上に出たら、サトイモの姿が消えていた。
完全に見失った。
しばらく周辺を探し、もしかしたらと家にも戻ってみたけど、いない。
荷物を置いて捜索に出かけた。
しばらくすると、幼稚園から電話がかかってきた。
「今、サトイモくんが県警本部で保護されているそうです」
親切な人が、迷子になって泣いているサトイモを県警に連れて行ってくれたらしい。
県警で、本人が名前と幼稚園名を言ったので、幼稚園経由で連絡がついたというわけだ。
県警本部につくと、サトイモは何人かの警察官と一緒にいて、もう泣いてはいなかった。
平然としている。
「おしゃべりしてくれて、『崖の上のポニョ』を歌ってくれましたよ」
と警察官。
呆れるやら、腹が立つやら、ホッとするやら。
県警本部の目の前で迷子になったために、県警本部で保護されたけれど、本来なら迷子を保護するのは警察署か交番だ。
引き渡し手続きが本部ではできないらしく、わざわざ署からお巡りさんが来てくれた。
状況を説明し、引取の書類に名前や住所、連絡先等を記入する。
そのあと、お巡りさんがサトイモにズボンや袖をめくらせた。
「すねの絆創膏は転んだのかな?」
とケガについて本人に確認する。
服をめくってお腹や背中も見せる。
なるほど、虐待の確認をしてるのか。
サトイモには、
「今回のお巡りさんはみんな優しかったけど、上の階には怖い鬼も住んでるんだからね。今度迷子になったら、鬼と一緒の檻に入れてもらうからね!」
と脅しておいた。
実際、兵庫県警本部の上には留置所がある。
尼崎連続変死事件を首謀したおばはんが留置中にタオルで首をくくって自殺した場所として有名だ(私の中では)。
県警の上階には鬼が住んでいる、という表現に間違いはない。
少し落ち着いてから、
「今度迷子になったらもう迎えに行かへんで。県警に泊めてもらい。おうちより美味しいご飯を食べさしてもらえるかもよ」
と私が冗談めかして言うと、
「残念だったねぇ。おうちよりおいしいごはんがたべれたのにねぇ」
とサトイモもニコニコ顔で言った。
やれやれ、こりていない。
ポイントは階段
先日、そろそろ仕事を片付けて失礼しようか、という時間に、電話がかかってきた。
知らない番号だ。
おそるおそる出てみたら、
「サトイモくんのお母さんですか?」
と男性の声。
「道で一人で泣いているので、たずねてみたら、名札の裏に電話番号が書いてあったので」
と言う。
場所は県庁前というだけで、詳しくはわからなかったが、
「すぐそちらに向かいます!」
と私は上司に事情を話して飛び出した。
この日は幼児教室の日で、ファミリーサポートさんが幼稚園に迎えに行き、移動の途中だった。
ファミサポさんに電話をかけると、やはりサトイモが勝手に走っていってしまい、探し回っているということだ。
見失ったのはやはり県庁前だ。
先にファミサポさんと落ち合い、やっと姿を見つけた。
サトイモを保護してくれたの若い男女のカップルで、京都から来ているとのこと。
とにかく感謝と平謝り。
サトイモはりんごジュースを買ってもらって、ごきげんだった。
「すみません、お支払いします!!」
とは言ったものの、
「いーですいーです」
と、ササササッと行ってしまわれて、何のお礼もできなかった。
何かの用事なのか観光なのかわからないが、お二人の貴重な時間を無駄にしてしまって、本当に申し訳ないことをした。
ファミサポさんに聞いた詳しい事情はこうだ。
自転車で迎えに行ったので、後部に乗るように言ったけれどサトイモは乗車拒否。
サトイモが走るのを自転車で追いかけるようにして進んでいたが、突然サトイモが歩道橋の階段を駆け上がって行った。
ファミサポさんは自転車なので階段には上がれない。
歩道橋を渡ったと思い、反対側で待っていたが降りてこない。
もしかしたら、もう幼児教室へ向かったのかも、とファミサポさんはさらに道を進んで探した。
一方、サトイモによると、歩道橋の階段を上がったものの、渡らずにまた階段を降りたのだそうだ。
降りてみると、ファミサポさんはいない。
はぐれてしまって、泣いていたのだそうだ。
保護してくれた方には面倒をおかけしたが、それ以上にファミサポさんにも多大な迷惑と心配をかけてしまった。
教訓!
階段は標的をロストしやすい!
そして、世の中、親切な人のなんて多いことか!
渡る世間に鬼はなし。
「優しい人でよかったねぇ!」
とサトイモが反省もせずに言うので、
「今度迷子になったら、『そんな子知りません!迎えに行きません!』って言うで!」
と脅しておいたが、はてさて、サトイモは全く懲りていない様子だった。
対策として、サトイモにはAppelのAirTagという紛失防止製品を持たせることにした。
鍵やカバンにつけておき、探すときにはアプリで位置情報がわかるというもの。
AirTag本体にGPS機能があるわけではなく、付近のiPhoneに接続して位置情報を取得するので、若干場所があいまいだけれど、ま、ないよりマシだろう。
たまたまサトイモが出会ったのがこれまで良い人ばかりだったけど、そう運良くばかりはいかない。
子供が一人でいると連れ去りに来る鬼がいることを、サトイモにどうにかわからせなければいけない。
私は『クリミナル・マインド』でそういう話をいっぱい見てきた。
でも、リアルすぎるとトラウマになるだろうし、甘すぎるとナメられるし、加減が難しい。
適度にビビらせることができる教訓物語を現在模索中。