2024年9月6日現在、サトイモは完全に不登校になってしまった。
結局、8月30日の登校日と、9月2日の始業式しか行けなかった。
振り返ると、9月2日も相当行きしぶっていたのに、
「遅刻してでも、サポートルーム登校でも、取り合えず学校に行こう、どうしても嫌だったら早退したらいいから」
と連れて行ったのが良くなかった。
あとで落ち着いたときに本人が話してくれたことによると、
「ママの嘘つき!どうしても嫌だったら保健室に行ったり、帰ってもいいって言っに、先生たちがそうさせてくれなかった!だから僕は逃げ出したんだけど、追いかけてきて捕まえられて、怒られて叩かれた!」
という。
最後の「叩かれた」の真偽は鵜呑みにできないけれど(捕まえる際にもみ合いになることは私もよくある)、本人の認識はそうなのだろう。
それで、
「もう二度と学校には行かないよ!」
となってしまった。
コーチにまで大暴れ
その月曜日の夕方はスイミングスクールだった。
8月のレッスンでは2回もコーチとトラブルがあり、もうダメかもしれない、と思っていたけれど、最終週の昇級試験では頑張って1時間まともにレッスンができ、テストも合格して昇級した。
「やっぱり今日、スイミング行きたくない…」
ちょっとつぶやいたけれど、
「帰り、お友達と一緒にスーパーに行くんだったら行く」
と言うので、それほど心配なく連れて行った。
準備体操もノリノリで参加しているし、よしよし、と思って見守っていた。
ところが、レッスンが30分ほど過ぎた頃、様子がおかしくなった。
コーチと揉めている。
泳げるようになるまでは、腕に浮袋をつける規則なのだけれど、サトイモはそれを外してしまう。
背が立たないし泳げないし、外すと溺れてしまうのに、外すからコーチはつけさせようとする。
揉み合いになる。
コーチを蹴る。(水の中なので深刻ではない)
プールサイドを走って逃げる。
飛び込むなど一人で勝手な行動をとる。
監視員に、口に含んだ水を吐きかける。
私も出ていって、「そんなことをするなら帰ろう」と声をかけるけれど、プールから出てこない。
友達や友達のママたち、ほかのコーチたちも寄って来て声をかけてくれる。
もしかしたらこれが良くなく、注目を浴びたために余計に行動が悪化した。
浮袋を両方外して投げる、背の立たないところで溺れる、助けてもらって蹴って逃げだす、また飛び込む、の繰り返し。
ジャグジーにも飛び込み、ほかの保護者に水しぶきをかける。(水しぶきをかけようとしたわけではないけれど、人がいるところで飛び込むと水がかかるに決まっている。)
なんとか捕まえられる場所に出てきたところを、私がタオルでくるんで強制的に連れ出した。
取り押さえる私の腕に噛みつく。
噛まれるのは初めてだったけど、乳歯なのでたいして痛くない。
逆にさるぐつわのように腕をあごに突っ込んで離さないようにした。我ながら優れた反転攻勢。
更衣室で強制的に着替えさせる。
唾を吐きかけてくるので、サトイモのパンツで拭く。
「唾がついた汚いパンツを履いとけ!」
と無理やり履かせる。
さらに嫌がるサトイモ。
着替えの最中、
「もう無理!もう嫌だ!普通の生活がしたい!」
と意味不明なことを泣き叫ぶ。
普通の生活って何なんだよ!?普通の生活がしたいのはこっちやっちゅうねん!!
暴れるので、着替えさせる最中にひっくり返って壁に頭を打ち付け、大泣きする。
完全に頭にきているので、ざまあみろ、と笑う私。
着替え終わったあと、無理やりエレベーターに乗せてスイミングスクールを連れ出す。
裸足のまま連れ出したので、駐輪場でサンダルを履かせようとしたけれど、暴れて蹴って来る。唾を吐きかけられ、また噛まれる。
「蹴らないって約束したら放す。いい?」
「蹴らないから放して!」
そう言ったので放すと、サトイモは裸足のまま脱兎のごとく走って逃げた。
やれやれ。
二度目の警察
スイミングスクールには自転車で来ているのに、走って逃げたりして、自転車どうすんだよ!!
と呆れるばかりで、私は自分の自転車に悠々乗りこんでサトイモを追いかけた。
途中、発見。
しかし、近寄ると自転車を蹴ってくる。
危ないし頭にきたので、先に家へ帰った。
取りあえず荷物を家へ置いてから探しに出かけよう、と玄関を出たところ、サトイモが走って帰ってきた。
「ああ、おかえりなさい」
すると、そのあとを追いかけて、背の高い男性が突然現れた。
走ってきたようで息せききっている。
「お母さんですか? ここ、あの子の家ですか??」
「はい…、あの、あの子なにかしたんでしょうか??」
「突然でごめんなさいね、急いで追いかけてきたんで、手帳と名刺を置いてきてしまったんですけど、あの、僕、兵庫県警の捜査一課の者で…」
と首から下げている職員証を見せた。
その男性が言うにはこういうことだった。
別の事件を終えて県警本部に帰ろうとしていたところ、県警前を裸足で走っている子どもを見かけた。
かつて、福祉施設から逃げ出した児童が事件に巻き込まれて殺されたことがあり、裸足で逃げている姿等がその事件にとても似ていたことから、気になって追いかけてきたのだという。
呼び止めたけれどサトイモは無視して逃走。(男性曰く、「知らない人から話しかけられて、怖くて逃げたのかもしれない」)
そのまま追いかけてきたらこのマンションにたどりつき、たまたま中から出てきた人がいるのでオートロックが開いて中に入ってきたということらしかった。
「お子さんはどこかから逃げだしたとか、そういうのじゃないでしょうか?」
「逃げたのは逃げたんですけど…」
次は私が、事情を説明する番になった。
スイミングで言うことを聞かなくなり、そこで逃げ出したことを普通に話した。
「お騒がせしてすみません」
それにしても、その男性。
うちの夫の身長が180センチあるけれど、それ以上のすらりとした長身、ひげのある少し渋めの見た目。大谷亮平というか竹野内豊というか、それを足して2で割ったような(結局同じ顔か)、とびきりのイケメンなのだった。
しかも捜査一課。
ドラマか!!
刑事が突然家を訪ねてきたのにも驚くけれど、そのうえ俳優かモデルかといった刑事がいることにもビックリしてしまった。
さすが県警本部
大谷亮平似の刑事と話していると、捜査一課からさらに3人の刑事がやってきた。
男性二人と女性一人。皆それなりに若い。
さきほどから「刑事」という単語を使っているけれど、刑事、警部補、警部などの違いが私にはよくわからないからひとまず一括りに「刑事」とする(実際、名刺をくれた一人は「警部補」だった)。
子どもと親のそれぞれから事情聴取ということで、サトイモの相手は女性の刑事が担当。
私は3人の男性刑事の質問に答えることに。
今日の経緯だけではなく、成育歴や普段の生活も尋ねられ、発達障害があって最近家で荒れていること、学校も行き渋りがあること、よく逃げ出すことなども話すことになった。
さすがだなぁと思ったのは、
「過去にも一度保護されたことがありますね」
と、幼稚園年中のときに行方不明になって県警本部で保護された過去の記録がすぐ出てきたことだ。
そして、刑事同士、事情聴取した情報のやりとりをLINEで行っていた。
なるほど、グループLINEを使ったら情報共有が早い。2021年に父がヘルパーに泥棒されたときに対応してくれた警察署とは全然違う!!(「おい、うちの署にインターネット使えるパソコンあるか?」には卒倒しそうになったもんなぁ…)
いろいろと話をしているうちに私は情けなくなってきて、
「いうことはきかないし、暴れるし、逃げ出すし、こうやって皆さんにご迷惑をおかけするし、もうどうしたらいいかわかりません…」
涙目で泣き言を言うと、刑事さんたちはおおむね好意的で、
「ぼくらもこういう仕事をしているから、発達障害の子の子育ての大変さとか、一般の人より理解あるほうやと思います。実際難しいことがいっぱいあるんやと思うし、できるだけ周囲を頼って、一人で頑張りすぎんように。僕らもええように頼ってもらったらええから」
と優しかった。(でも、頼るって具体的にどうやって???)
最近は私が何を言っても、「ママはウソばっかり!大人はわかってくれない!」と反抗していうことを聞かない、という話をした。
「外で裸になったら子どもの裸が好きなおじさんにいたずらされるよ、子どもがお金を持ってたら泥棒にあうよ、ひとりで出歩いたら連れ去られるよ、と言っても、『そんなのウソなんでしょ!本当は大丈夫なんでしょ!』といって信じないんです。『だって、地震も台風もくるっていって、こなかったじゃないか!』って」
「確かに。しっかりしてるなぁ」
「昔、長田区で一人で歩いていた小学生の女の子が殺された事件がありましたよね。こんなことになるんやで、って実際起こった事件を教えてやっても、『ニュースに出てても本当に殺されたのかどうかわからないでしょ!じゃあその子が死んでる証拠をみせて!』って口ごたえばかりですよ…」
「…その事件の捜査、僕、担当したんです」
刑事の一人が言ったので、びっくりした。
テレビの中の世界とつながったような気分になった。
それで捜査一課…。
捜査一課といえば、殺人などの重大事件を捜査する担当だときいているから、なんで子どもが走っていただけで追いかけてくるのかなぁ、と不思議だった。
福祉施設から逃走して亡くなった子どもの件、神戸長田区小1女児殺害事件、そしてサトイモの逃走事件。なんだかつながった。
日本の警察は事件が起きてからでないと動かない、といわれるけれど、サトイモのように事前に守ってもらえる場合もあるんだなぁ…。
「僕らから伝えておいたほうがよかったら、何かお子さんに言うときますよ」
と刑事さんが言うので、悪い人は実在して事件は本当に起きるのだ、ということをサトイモに直接伝えてもらった。
今日のケースは一応、一旦行方不明になった児童を警察が保護し、保護者へ引き渡した、という形になっていた。
そのため、県警本部の刑事ではなく、次に生田警察署の制服警官たちがやってきた。
こっちは交番や街中でよくみかけるタイプの、いわゆるお巡りさん。
再びサトイモに聞き取りをし、私は引き渡しの同意書にサイン。
警察が家の中をずかずか入ってくるのも、なんとも思わなくなった。
たまたま掃除しててよかった~!
懲りるかと思いきや
これだけ大事件になってしまって、さぞやサトイモも懲りるだろう、と思いきや、果たしてそうはならなかった。
夜、またしても夫の言うことを聞かず(いつまでも録画している映画『リメンバー・ミー』を見ている、歯磨きもしない、ベッドにいかない、etc)、注意されていることに逆ギレしてまたしても大暴れ。
何も変わってない!!
「またお巡りさんに来てもらおうか」
と私が脅しても効果なし。
振り返って考えると、私が悪かった。
警察御一行様が帰ったあと、私は精神的に参ってしまって、サトイモのことは一切無視して黙々と夕食づくりをしていた。
サトイモのフォローをしてやらなかった。
びっくりしたね、と抱きしめてやって、もう二度とこんなことがないように、と反省会をすればよかった。
これはちょっともう、本当に大変だ…。
私たちはサトイモの発達障害と登校しぶりを甘く見ていたかもしれない。
実際はどちらも、考えていたよりずっと重度なのだ。
このままではダメだ、この状況を変えるために本気で考えなくては…、と私自身が方針転換を余儀なくされる日になった。
できるかぎりの方法を試す。知識を習得する。助けてもらえる人には片っ端からSOSを送る。反省点を活かして、同じ失敗を繰り返さない!
にしても、「幸せな人生より面白い人生を」を標榜する私だけれど、いきなり大谷亮平似の刑事が家を訪ねてくるなんてことある??
サトイモがいると、退屈な人生にだけはならない。