10月15日火曜日、私一人で小児科へ薬の相談に行く。
サトイモは22時半に寝たのに翌朝11時半になっても起きない。
起きるように声をかけても、すぐに眠ってしまう。
よくないのはわかっているけど、サトイモを一人残して、私だけで出かけた。
薬の相談だけなんだけど、こういうのもやっぱり病院に行かなきゃダメなのかなぁ。電話とか。診療報酬を払わないといけないから、やっぱり行かんとあかんのか…。
そして、家にサトイモを残しているからヤキモキしながら、病院の待合で待つこと1時間半。
リスペリドンを飲んだ初日から調子が悪い、手足が動きにくいと言っていたこと、飲むと元気がなくぼんやりしていること、だいたい24時間経つと元気になってまた暴れることを訴える。
すると医師は、
「ということは、よく効いてるんですね。リスパダールという薬はすごく不思議でね、効く人もいれば全く何の効果もあらわれない人もいるんですよ。なぜ効く人と効かない人がいるのか医者にもわからないんです。でも、この子には効くってことですよね」
と言った。そしてこう続けた。
「調子が悪い、動きにくいっていうのは、アンパンマンのあれです。『顔がぬれて力が出ない』って、あの状態です」
なるほど!わかりやすい!さすが小児科医!
言われてみれば、アンパンマンの頭のアンコは脳なんだなぁ。
「切羽詰まってそうだったんで、最大量の4ミリを処方したんです。でも、朝夕1ミリずつの人もいるくらいですから、朝2ミリ、夜2ミリに変えましょう。もちろん、多いなと思ったら減らしてもかまいません。どちらかスキップしても、時間をずらしてもかまいません。ちょうどいい量と飲むタイミングを探りましょう」
ひとまず、今晩から半分。
2回に分ければ、薬が切れるタイミングで暴れることもないかもしれない。
一人で留守番
家に帰ると、サトイモがマンションの駐輪場で私を待っていた。
「なんでこんなところに?!」
「あんまり遅いから、事故したんじゃないかと心配したんだよ」
「ごめんごめん、病院でめっちゃ待たされたんや。でも、一人でおうちの外に出ると危ないよ」
「そう思って、おサイフとスマホを持ってるよ。電話がかけられるように」
スマホは死んだ父のもので電話はかけられないけれど、電話帳を閲覧できるから、私や夫の連絡先がわかる。硬貨があれば公衆電話で電話をかけられることは教えている。
「それに、お金があったら飲み物が買えるから、命が守られるしね」
サトイモは熱中症対策にはやたらと熱心。これは昔の子供にはなかった今どきの危機管理意識だなぁと思う。
「オートロック、中へ戻られへんようになったんちゃう?」
「そう思ってドアをちょっと開けてるよ」
自動ドアではない裏口のドアに、サトイモは小さい段ボールをちょっと挟んでドアが完全に閉まらないようにしていた。
あれこれ自分で考えたんだろう。
しっかりしてるといえばしているんだけど…。
大人が考える最も賢い子の行動としては、家でじっと待ってることなんだが。
サトイモにはまだ家の鍵を渡していない。
どんな物でもすぐに忘れる、落とす、失くす、のオンパレードなので、まだ鍵を渡せないというのが私と夫の判断だ。
加えて、鍵を持っていたら自由に家を出入りしてしまうだろう。
きっと鍵を渡していたら、病院まで勝手に探しに来たかもしれない。
「待っててね」と言ったのに、それが待てないのだ。
薬の効果
薬を減らしてみると、朝夕2ミリではなく夕方2ミリで十分なことがわかった。
暴れることはほとんどなくなり、落ち着いているような気がする。
2ミリでも死んだように眠り、トイレを失敗したりおねしょをするようになった。
また、鉛筆を持つ手が震えることもあって、それが一番痛々しい。
これまでどれだけ身体を使って遊んでも疲れ知らずの「体力おばけ」だったのが、少し走り回ると普通の子ども程度に疲れるようになった。
夜も22時台に寝るようになった。昨日なんか、夕食を食べながら眠ってしまう始末。
ただ、薬を飲んだから突飛な行動はしないかというとそうではなく、床に水を撒いて全裸で滑る遊びをしてみたり、自転車を部屋の中に乗り入れたり、ショッピングモールの床でゴロゴロ寝転がったりと、私の頭が爆発しそうになる問題行動は相変わらずやっている。
これまでと違うのは、私が歯をくいしばって我慢していることだ。
夫がキレそうになっても、私が制止している。
「この子はお脳の病ですから」
と冗談ぽく言って自分を誤魔化すしかない。
真面目に言うと、「とにかく今は親が子どもを全面的に受け入れる姿勢を見せる」。
薬が効いているうちに、信頼関係を結んで、こちらの言い分も聞いてもらえる状態までもっていく。
いつまでこんな状態が続くのかわからないのが地獄だけど。
縛られた猫
本当に辛い。
「ママ〜!ついてきて!」
「ママ〜!いっしょにあそぼ!」
「ママ〜!何してるの早くして!」
ママ〜!ママ〜!ママ〜!
気が狂いそう。
抗精神病薬を飲んでいたとしても、
「一緒に遊ばないと、さもないと…」
と暴力で脅してくる。
四六時中束縛される。
こうなってみて、自分自身が気ままな性格だから、普通の人以上に辛いのだとわかってきた。
縛られて閉じ込められて、自由を奪われた猫の気分。
自分の物を勝手に触られて使われて、家中散らかされて汚されて。
食事を作っている最中にサトイモはフライングして食べてしまい、私が食べているのに、
「何のんびり食べてるんだよ、早く一緒に遊ぼうよ」
とゆっくり食事さえさせてもらえない。
お風呂も同様だ。
「いつまで入ってるの。早く上がってきて一緒に遊ぼうよ」
遊びだって、私が提案した遊びは却下され、サトイモがやりたい遊び(将棋、大富豪、人形遊び)ばかり強要される。
先日驚いたことがある。
「3時だから一緒におやつを食べない?」
と遊びを中断してお菓子を食べながらテレビを観ていると、先に食べ終わったサトイモが、
「早く遊ぼうよ」
とせかしてきた。
「まだおやつ食べてるんだけど」
と断ると、
「ママはいつも自分のことばっかり!ママがおやつ食べようっていうからボクは付き合ってあげたのに、ボクが遊ぼうって言っても遊ばないなんて!自分勝手だよ!」
とサトイモが抗議した。
自分勝手?!?!
どの口が言うか…!
これが彼氏だったらこの時点で即時別れてやるのに!!
夏休み中もあまりにママママうるさいので、
「もうママって呼ばないで!」
とキレたことがあった。
「じゃあ何て呼べばいいの?」
「これからは…、❛おかあタマ❜と呼びなさい」
その後しばらくサトイモは、
「おかあタマ〜!」
と私を呼んでいた。
それはなんか可愛いので、うっとおしさも緩和された。
ちょっとした生活の工夫。
また呼び方をおかあタマに戻さなければ。
おかあタマと呼べば遊んでやる。