三連休の一週間前までは、夫が「富士山キャンプに行こう」と言っていた。
私が「近くで富士山を見たことがない」と言ったのが発端。
サトイモも富士山という高い有名な山があることは知っているけれど、もちろん見たことはない。
というわけで、富士山キャンプだ~!と張り切っていたのだが…。
サトイモが夫にトミカをぶつけて以降、険悪な雰囲気になったし、サトイモは情緒不安定。
おまけにキャンプ場はどこも満員で空きがないというわけで、今回は見送ることにした。
サトイモもあっさりと、
「富士山キャンプは来年行こう。ボクも2年生になってるから、できることがいろいろ増えてるだろうし」
と言う。
私と夫は、「学校行ってないのに2年生になるんや…」と内心思ったけれど、口には出さず。
それで、三連休の予定は白紙。
予定を立てようにも、サトイモの情緒がどんなふうに転ぶかわからず、何も決められなかった。
唯一、私は連休中どこかで実家の様子を見に帰りたいと思っていたくらいだ。
泊まりでもいいし、日帰りでもいいし、サトイモと私だけでもいいし、夫と三人でもいいし、そのあたりも漠然と。
日曜日の朝、私がそんなことをポロリともらすと、サトイモが突然、
「じいじんちに行く!早く行こうよ!」
といきなり出かける気満々になってしまった。
急に言われても準備も気持ちも追い付かない私と夫。
「明日ゆっくり朝から行こう」
と言ってもきかない。
実家に行くのには、電車で行くか夫の車で行くか。
電車より、夫が運転する車に乗っていくほうが確かにラクだ。
けれど、私は正直夫と実家に行くのが嫌い。
遠いだの田舎だの、家が汚いだの臭いだのダサいだの古臭いだの、疲れるだの体調が悪くなるだの、ありとあらゆる文句を言われるからだ。
夫にとっては「全部処分しても差し支えないゴミ屋敷」だとしても、私にとってはかつて両親と暮らした思い入れのある家なのに。
そんなに文句を言うなら一緒に来てほしくない、といつも思う。
「私とサトイモ、二人で行くわ。サトイモがいつまたパパに物を投げるかわからへんし」
と私が言うと、サトイモも、
「パパは疲れてるから来なくても大丈夫だよ。ママと二人で電車で行くよ」
と敬遠した。
「一緒に行ったらあかんの?」
「だって、パパは休んだほうがいいから」
こんな婉曲表現ができるのかと感心してしまった。
「それって、パパが嫌いってこと?」
夫はショックを受けたようで、逆に意地になって「一緒に行く」と言い出した。
夫は、実家のキッチンの照明が壊れているのを直してあげると言って、ホームセンターで新しい照明器具を買ってきてくれた。
配偶者がいると、心理的に負担になる。が、実利を優先すれば大変助かる。
一人でいるのは心細い。二人でいるのは煩わしい。
夫婦というのはこんなシーソーゲーム。
結局、夫の車で出かけ、日曜の夜は夫も含めて三人で実家で一泊することになった。
大好き回転寿司
サトイモはお寿司が大好き。
本格的なお寿司は難しいので自ずと回転寿司になるが、神戸では「くら寿司」や「魚べい」によく行くし、実家の近くなら「はま寿司」。
今回、せっかくだからこれまで行ったことのないところに行こう、と力丸という回転寿司に行くことにした。
神戸にもあるらしいけど、姫路を中心にしているチェーンだ。
やっぱりそれなりに人気があって、けっこう待ってからテーブル席へ。
厚焼き玉子が名物らしく、玉子が大好きなサトイモにはまずそれを食べさせる。
「おいしすぎるぅ〜!」
と、大満足。
あとは、これまた大好物のイクラ、そしてフライドポテト。
ポテトは食べ切れないと残しながら、
「玉子おかわり!もう一個注文して!」
と言う。
はま寿司で玉子ばかり4皿食べたことがあり、もしかして今回も?!とギョッとなる。
はまと違って力丸の「ほくほく手焼玉子」は250円。
お代わりと言いつつ、来たら気が変わって食べないことも多いサトイモ。
参ったなぁ、と注文を迷っていると夫が、
「『ほくほく手焼玉子』と別に、普通の玉子もあるで。普通のは100円や」
と言うので、
「同じのじゃなくて次は普通の玉子にしてみない?普通の玉子でいい?いいよね?それにするよ?」
と安い方を注文する。
これがまずかった。
なぜか時間がかかり、なかなか来ない。
サトイモはじっとしていられず、イスの上に立ち上がる。
中で調理している様子が、立つと見えるからかもしれない。
だとしても、小さい子じゃあるまいし、イスに立つと頭一つ飛び出す。
恥ずかしくてつい、
「立つのはダメだよ、座ろうね!お願い、座って!」
と私が必死で座らせようとしてしまった。
スイッチ全開!
ここでサトイモの悪い子スイッチが入る。
ニコニコして、座るどころか、イスの上から移動しようとするそぶりさえ見せる。
抱きかかえて場所を移動。
キッズスペースがあったので、そこでクールダウンさせようとしたけれど、そこでもじっとしていられない。
そのあたりでちょうど注文の玉子がやってきた。
玉子のお寿司を見た瞬間、
「ボクが言ってたのはこれじゃないよ!!」
と怒り出す。
仕方ないので今度は店の外へ。
余計に暴れ出し、店の看板を蹴り倒す。
押さえると私を引っ掻くし、放すと逃げて走り出す。
夜の駐車場で走られると本当に危険で、必死で追いかける。
追いかけられると余計に逃げ回る。
逃げてまた店内に入ろうとするけれど、店内で暴れられたら終わりなので、必死で阻止。
私はもうどうすればいいかわからず、泣きたい気分。明鏡止水は吹っ飛び、大嵐だ。
しばらくして夫も店外に出てきて、私と交代。
引き継ぎ中にサトイモは走って逃げて行方不明。
夫は捜索、私は店に戻って注文した大トロだけ大急ぎで食べる。
するとサトイモが走って戻ってきて、店内をグルグル走り回った。
夫も戻って来てサトイモを捕まえて、抱きかかえて店外へ。
手つかずのお寿司をいくつか残しつつ、私は慌てて精算。
「だったらボクに五百円払ってよ!」
サトイモが謎の請求をする。
車に乗せるため、
「ああわかった!払たるからとにかく帰ろう!」
とにかく車に乗せて走り出すと、サトイモも少しは落ち着いた。
「五百円ちょうだいよ!早く払って!」
こんなことじゃ、旅行どころか、しばらく飲食店には行けやしない。
効き過ぎる薬
実家に着いてからすぐ、チョコサンデーのアイスで薬をリスペリドンとメラトベルを飲ませる。
すると電池が切れたように爆睡。
リスペリドンは副作用も出るし効きすぎる向きがあり、効いている間はぼんやりと元気がない。
なのでできれば飲ませたくないのだが、こんなふうに暴れると飲ませざるをえない。
夜、薬の効果が切れる時間になると元気になって活動的になり、暴力的になる。
反動がひどい。
今後、ほどほどをどう見つけるかだ。