三連休明けの火曜日、サトイモは突然なぜか学校に行く気になり、二時間目の途中から登校した。
時間割を確認もせず行かせたのだけど、本人がノリノリで行けたので、そんなに心配もせずに送り出した。
あとから思えば、時間割がよくなかった。
学校から電話がかかってきたのは、12時前。
またサトイモがトラブルを起こしたので、迎えに来てほしいという。
迎えに行くと、教室の向かいにある空き教室で担任の先生と二人でいて、サトイモは泣いて取り乱していた。
「もうこんなところにはいられない、早く帰らせて!」
教室で先生と揉めて、教室を逃げ出して、追いかけられて、暴れて、連れ戻される、という一連の、おなじみの問題行動。
またやってしまったのか…。
ため息が出る。
でも、私の心持ちはこれまでとちょっと違っていた。
これまでは、パニックを起こすサトイモに対して、恥ずかしくて情けない気持ちだったり、先生に申し訳なく思ったりしていたけれど、今回はそうではない。
また、「学校」がやってしまったのか、という思いだった。
パニックになるまで追い詰めないように、と何度もお願いしていたのに、また彼らはサトイモを追い込んでしまった。
またやっちまったな、という学校に対する不信感。
学校が悪いのではないかもしれない。
けど、サトイモはこの学校とは「合わない」。
登校しても心が傷つくだけで、学びにも成長にもならないかも。
パニックまでの経緯
トラブルはいつも、担任の先生がいないところで起きる。
今回は、4時間目の道徳の授業で起きた。
道徳は担任以外の先生が受け持つことになっているらしい。
このときは、同じ2年生で、4組担任の中高年の女性の先生が道徳の先生だった。
サトイモが授業に参加するとき、座っていさえすれば何をやっていてもいい、と担任の先生からお許しをもらっている。
この日の道徳でも同じように、学校から貸与されているタブレットパソコンを開いて作業をしていたそうだ。
すると、道徳の先生が、
「担任の先生からパソコンをしていいと許可されてるんですか」
とサトイモに尋ねたらしい。
サトイモは全く返事をせずに黙って作業を続けた。
何度も尋ねても無視するサトイモ。
担任の先生の説明では、
「T先生は怒って注意したんではなく、尋ねただけだそうですが、返事がなく無視するので」
とのことだったが、サトイモの話では、
「なんて答えたらいいかわからなくて黙ってたら、先生は怒って、僕の荷物やランドセルを投げ飛ばして、先生とケンカになって、僕も投げ飛ばされた」
ということだった。
実際、サトイモのランドセルがひどく汚れていた。
「ここも、ここもケガをしたぁ!」
とサトイモは擦り傷を見せて私に訴えた。
道徳の先生と揉みあっていると、特別支援学級の先生がやってきて、サトイモをクールダウンのために外へ連れ出してくれたらしい。
サトイモ曰く、
「運動場に行ったけど、何もすることがなくてヒマだったから、また教室へ戻った」
「戻るときに、先生に教室に戻るって言った?」
「言わなかった」
「しかも走ったんじゃない?」
「走ったよ」
「じゃあ、先生たちにはまた逃げたと思われたんじゃないかな?」
「そうかも」
そしてサトイモが教室に行くと、クラスメイトがサトイモの周りを取り囲んだらしい。
ここが謎なんだけれど、サトイモの目線からすると、
「教室に入ろうとしたら、みんなが邪魔してきて、攻撃してきたから僕も戦った」
ということだった。
「みんなが僕を攻撃してきた」
「なんで?」
「わからない」
きっとクラスメイトの目線からすると、全く違う事情があるんだろうと思う。
けれど、重要なのはサトイモの主観だ。
サトイモには「みんな敵」「みんなが怖い」ということになってしまった。
そこへ担任が戻ってきて、またサトイモと担任との追いかけっこ。
捕獲され、空き教室に閉じ込められてお迎えを待つ、という結末に至った。
ねにもつタイプ
「もう二度と学校には来ない!」
と泣くサトイモに、担任の先生は、
「そんなこと言わんといてよ。これで終わりなんて悲しいやんか。2時間目3時間目は楽しく過ごせたやんか」
と声をかけていた。
けれど、私はそれがひっかかった。
トラブルを起こす回数が増えれば増えるほど、サトイモは学校に来れなくなる。
やっとの思いで登校できるようになったのに、それがまたこんなことになって、嫌な思い出ばかり増える。
99個の楽しい時間も、1個の最悪な経験によって全部台無し。
私も相当根に持つタイプだけれど、サトイモの「嫌な体験記憶」はその何倍もだ。
「今後、サポートルーム登校させてもらうのは、無理なんでしょうか?」
私が担任に尋ねた。
「サポートルームは、教室に入れない子のためのものなんです。サトイモくんは教室に入れてるので、教室で過ごしてほしいという思いがあるんで」
これまでも何度もそう言われ、今回でも。
でも、
「教室で過ごしてほしい」
という担任の思いは、先生の一人よがりなのではないか、という不信感が芽生え始めた。
「教室→トラブル→さらに学校が嫌になる」
という負のループが起こっていることに、気が付いてほしいと思った。
みんなの前で先生に怒られ、追いかけられ、パニックを起こしたサトイモを、クラスメイトはモンスターとして蔑視するようになるだろう。
担任の先生にはこれまで本当によくしてもらったけど、もういい加減、手に負えないことを理解してもらいたい。
この期に及んでもまだ、サポートルーム登校が許されないという意味がわからない。
そもそも、その道徳の先生に、サトイモが不登校を繰り返している発達障害を抱えた子どもだということが伝わっていなかったんだろうか。
先生たちの横の連携が取れていないとしか思えない。
「あなただけパソコンを使っていいといわれてるんですか?」
とみんなの前で詰問されて、「僕だけ許可されてますよ」と堂々と答えられるような子どもは、そもそも不登校になったりはしない。
それができないから不登校になって、それでもようやく、やっとの思いで登校できたのに、台無しにされた。
私としても、学校に行ってサトイモがぼろぼろに傷つくのは、見ていられない。
WISC-Ⅴの検査結果
それとは別の話。
二週間前に受けたサトイモの発達検査の結果を報告してもらった。
来年から特別支援学級に入るにあたって、市の教育センターで受けたのだ。
これまでも発達検査は受けてきたけれど、幼稚園のときはWIPPSIという知能検査だったし、こども家庭センターではK式発達検査というものだった。
今回はようやく、有名なWISC-Ⅴ。
結果としては、幼稚園のときに受けたのとさほど変わらない。
全体としては平均の上。
言語理解とワーキングメモリは普通。
視空間と流動性推理はとても高く、処理速度が少し遅い。
全部平均範囲内だけれど、一番高い視空間と一番低い処理速度では38も数値が離れている。
センターの先生から、とても丁寧な説明を受けた。
頭の中ではいろんなことがひらめいているのに、手の作業が全く追い付かない。
いろんなことがわかっているのに、言語化は追いつかない。
ワーキングメモリも普通だから、次のことをひらめいてしまったら、前のことは忘れてしまう。
個別の問題にはどれも平均以上できるので、わかってそうに思えるけれど、大人が想像以上に「わかっていない」ことが多いだろうと推測される。
なぜなら、この検査の重要なところは、凸凹があるかないか。
それぞれの差が大きいほど、困難を抱えて、本人が困り感を持っている。
約22.5点以上あれば支援が必要だというから、38もあるサトイモは、かなり支援が必要な子どもだということだ。
「これまできっと、学校でとてもつらかったでしょうね」
来年はどうなることやら
この検査結果をもとにして、センターの人が特別支援のプランを作成し、学校にアドバイスをしてくれるらしい。
来年になったら、学校に行けるだろうか。
サトイモはもう二度と学校には行かない、と言っているけれど、4月になったら切り替えられるだろうか。
センターの先生が、この手の子どもが困ったときの行動パターンとして話してくれた、
「どうすればいいかわからなくて固まる→その場から逃げる→追い詰められて暴れる」
というのが、いつものサトイモにぴったり当てはまる。
「暴れる」の先については、何も言わなかったけれど、私はそれを繰り返すことで、心が傷ついて、やがて壊れてしまうんじゃないかと心配している。
内田拓海著『不登校クエスト』を読んで思ったのは、著者は全く学校に行かなかったことで自分を守って、健全な心のままだったから今の活躍に至れたのでは、ということだ。
学校に行っていたら、心を壊して、今の内田氏はいないだろう。
サトイモも、もう学校行かなくていいよ、という気持ちが強くなっている。
…でも、家でダラダラとゲームばっかりされたらムカつくし、「一緒にあそぼ」を連呼されると鬱陶しい、という思いに引き裂かれている。
せめて勉強してほしいけど、それもしないんだもんなぁ…。
