この土日は夫が一人でサトイモを引き受けてくれた。
日曜日に釣りに行き、前日の土曜日はその準備に連れ回してくれたのだ。
ありがたや、ありがたや。
サトイモは人生初めての釣り。
すごく楽しみにしていて、実際とても楽しかったらしい。
また行きたいらしいので、今後もそうやって夫が連れ回してくれることを期待する。
最近私は児童精神科医の本田秀夫氏にはまり、『子どもの発達障害 子育てで大切なこと、やってはいけないこと』、『自閉症スペクトラムの子のソーシャルスキルを育てる本 幼児・小学生編』を読んだ。
後者にこんな一節が出てくる。
親子で釣りを楽しむうちに、それが子どもの趣味になり、ストレス解消につながっていくこともある
確かに、スマホばっかりやってるよりか、釣りのがよっぽどいい。
だいたい、夫が愛読している開高健の本にも、
一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。
という格言が出てくるらしく、将棋同様、サトイモが老人になるまで楽しめる趣味を与えてあげられそうだ。
釣りについては、亡き父が常々こんなことを言っていた。
「釣りは3回楽しめるんや。準備を楽しみ、釣って楽しみ、釣ってきた魚を食べて楽しめる」
というわけで、昨日のおかずは二人が釣ってきたアオリイカだった。…と言うのは嘘で、イカの新鮮な身は固すぎて美味しくないとのこと。何日か寝かせないといけないらしい。
代わりに、夫が前回釣って冷凍保存していたものを食べた。
それでもアオリイカは美味。
ジャイアン思想
釣りからご機嫌で帰って来たサトイモだったけれど、玄関を開けた瞬間ブチ切れた。
というのも、サトイモが玄関にセッティングしていたポータブルデスクとPC、タブレット等々が、私によって片づけられていたからだ。
そもそもポータブルデスクは夫が在宅勤務時に使うためのものだし、PCとタブレットは私の故障したお古をクローゼットの奥から拾ってきたもの。
それが狭い玄関に置かれて大変邪魔なので、夫から留守中に片付けるよう要請を受けていたのだった。
それがサトイモの逆鱗に触れた。
「ボクの仕事部屋を!よくもやってくれたな~!」
確かに、電源のつかないPCのキーボードをカチャカチャやって、
「今お仕事してるの~」
とご満悦に在宅ごっこをやっていたが…。
サトイモが怒りのあまり物を投げたり、ドアを蹴ったりし始めたので、
「あ~、ごめんごめん、悪かった!元に戻すよ~!」
と私が平謝りしながら原状復帰。
夫と目配せしながら、お互いため息。
「サトイモ、それ、俺の机なんやけど?」
「違う!ボクのだよ!」
「なんでそうなるんや!」
「なんでって、これはボクのでしょ!!」
サトイモの認知がひどく歪んでいる。
私の物も夫の物も、
「家にあるのは全部ボクのもの!」
と勝手に使うので私も夫もいい加減ヘキエキ。
「おまえの物は俺の物、俺の物は俺の物、っておまえはジャイアンか!家の物と自分の物をはき違えるな!」
どんなに私たちが主張しても、サトイモのジャイアン思想はどんどんひどくなる一方だ。
サトイモに理解力がないはずはないのだけれど、なぜ「これはボクの!」となるのか理解に苦しむ。
嵐の再来
仕事部屋(玄関)の原状復帰が終わって以降、サトイモは機嫌よく過ごしていたが、嵐は再び起こった。
夕食のあと、夫がポロリと、
「サトイモ、今日の夜はパパ、あっちのベッドで寝るぞ。ええな」
と言ったときだった。
サトイモが自分の子ども用ベッドで寝ず、大人のダブルベッドを占領しているせいで、夫はここのところソファで寝ることを余儀なくされている。
私と夫が交代し、私がソファで寝て夫がダブルベッドで寝るのはどう?と提案してみたけれど、
「寝るのはママと一緒じゃないとダメ!」
と一蹴。
「じゃあ三人で寝るのは?」
「狭いじゃないか!パパは大きいんだよ!」
と断られる。
締め出されるのはいつも夫。
キャンプに釣りと、これだけサトイモに楽しみを与えてくれてるパパなのだから、ちょっとは態度が軟化するのでは、と夫は見返りを期待したはずだ。
ところが。
ベッドのことを夫が口にした直後、バチーン!と音を立てて、夫の頭にプラスチックのろうそくのオモチャがクリーンヒットした。
「痛ったぁーーーっ!!!」
額を押さえてうずくまる夫。
これまで、サトイモが物を投げることはあっても、人に当てるようなことはなかった。(単に投げるのが下手という説もあるが。)
しかも無防備な相手に。
これはやりすぎだ。
「サトイモ、今のは絶対アカンやつやろ!!」
この行為を言葉で受け流すかどうか迷ったけれど、投げる行為を止めさせなければ次々と投げてくる可能性もある。
私はサトイモを押さえつけた。
それがまた間違いだったかもしれない。
ここから、いつもの大暴れ。
ああ、またやってしまった…。
ただ、昨夜は今までとは戦闘方法が変わった。
「叩いたらアカン」という教えが頭に入ったためか、私たちの防御力が上がったためか、殴る蹴る投げる、が確実に減った。
代わりに、引っ掻く噛みつく唾を吐く、が増加。
サトイモの引っ掻きスキルが上がったせいで、夫も私も腕が傷だらけ。知らない人が見れば、「猫飼ってるんですか?」って言われるだろう。
相変わらず、押さえ込むと「やめて!放して!」と叫ぶくせに、「放すから何もせんとってよ」と条件を出しても、放したとたんに殴りかかってくるので、また押さえ込まざるをえない。その繰り返し。
「どうやったら落ち着くんだろう…」
「今度やったら縛るぞ」
夫に縛ると予告されても、サトイモは放されたとたん物を掴みにいって投げようとしたので、夫は縄跳びでサトイモの手足を縛った。
縛られたら余計にパニックを起こして大声で叫ぶのでは?と私は心配していたけれど、思いのほかトーンアップせず。
「よくもやったな!ほどいてやる!」
サトイモは縄をほどくことに注意がいったようで、少しずつトーンダウンしてきた。
「僕は何も悪いことしてないのに、なんでこんなことをするんだよ!」
とサトイモが泣きながら言う。
「最初に投げつけてきたのはサトイモでしょう」
「そんなことない!何もしてないのにママが押さえつけてきたんじゃないか!」
「いやいや、サトイモが投げたのがパパに当たったんだよ」
「そんなことしてないよ!」
「してるって!」
「僕じゃない!」
「僕じゃなかったら誰がおんねん!」
私と夫は呆れてしまった。
ソーシャルスキルモンスター
「え?まさか!あれはサトイモじゃなかったの??」
私は大仰に驚いてみせた。
「ママ、サトイモにそっくりな子が投げてきたから勘違いしてたわ。サトイモじゃなかったんや!ごめんごめん!妖怪がサトイモに化けてたんやろか!」
「そうか、あれは妖怪か悪魔のシワザやな」
夫ものってきてくれた。
「そうとも知らず、縛ったりして悪かったなぁ」
二人してサトイモの縄をほどき、
「かわいそうに縛られたりして、痛かったやろ」
と抱きしめてよしよしした。
「あんなもんパパに投げつけるなんて、なんて悪い妖怪や」
すべては妖怪に罪をなすりつけて、一件落着。
読んでくださった方は、アホくさいとお思いだろう。
けれど、これは一定の効果がある、らしい。
私がサトイモのことで手を焼いているのを知って、友達のYちゃんが心配していろいろとアドバイスをくれた。
その一つが、ソーシャルスキルモンスターという本のシリーズ。
ソーシャルスキルモンスターでは、問題行動を起こすのはそれぞれのモンスターのせいだ、とラベリングする。
すごくシンプルすぎて効果があるのか?と疑いたくなるけれど、「問題の外在化」という心理学的な背景理論を使っているらしい。
「問題行動を起こしてしまうのはあなたのせいではない」、と行動を子どもから一旦切り離して考えさせ、行動改善を図る。
これまでは、夫がサトイモに、
「おまえが悪い!謝れ!ごめんなさいが言えたら許したる!」
といくら怒ったところで、サトイモは絶対に受け入れなかった。
謝るどころか、自己正当化して行動がひどくなる。
モンスターのせいにすれば一旦丸く収まるし、そんな行動をするモンスターは悪いよね、と客観視できる。
今回も、妖怪ランボールのせい(親が昭和なもんで、モンスターと言わず妖怪と言ってしまう)、と言うことで落ち着いた。
この手は使えるかもしれない…!!
うちには妖怪がたくさん住み着いている。
これからもランボールが出てくることもあるだろう。
でも、こうやって一つ一つの試行錯誤を繰り返すしかない。
サトイモ本人が最近よく言っている。
「失敗は成功のもと!やってみなくちゃわからないでしょ!まったくママったら!」
出たな!妖怪マウンティングマウンテン!
そうそう、上記はサトイモが私にくれた誕生日プレゼント。
私がろくなベルトを持っていないので、手作りしてくれた。あとは折り紙のハート。
正直、私が本当に欲しいのはサトイモの安定なんだけど、贅沢は言えません。ありがとう。