サトイモの問題行動は続いている。
一番嫌になるのが水遊びで、洗面所でメモ帳を溶かしてドロドロにしたり、洗濯物を干しているのにすぐそばの朝顔に水やりをして洗濯物を濡らしたり、キッチンで勝手に食器洗いをしたり。
食器洗いは良かれと思ってやっているし、ちゃんとしてくれるなら助かることだけれど、周りは水浸しにするし、汚れや泡が残っていても気付かないし、置き場は間違っているし、とにかく二度手間三度手間になる。
もちろん、食器も割った。
それについては、素直に謝ったし、私もたくさん割ってきたから別にかまわないのだけど、そもそも食器洗いをしてほしくないから、歯噛みするような嫌な気分になる。
言い付けは聞かない
食器を割ると言えば、こんなことがあった。
私が食器を片付けていたとき、棚からお茶碗が派手に落ちた。
重ねていたものが全部落ちて、家族全員のお茶碗と深皿が2つ割れた。
破片も盛大に飛び散った。
「危ないからこっちに来ないで」
私はサトイモに何度も指示をした。けれど、サトイモは言うことを聞かない。寄ってきて破片を触ろうとする。
「やめなさい!!あっちへ行け!!」
私が怒鳴り散らす。
「なんでダメなの!!」
「破片で手を切るから言ってるの!!」
すると、サトイモは自分の部屋へ行き、しばらくしてからまたやってきた。
手に軍手、足には靴下を5足重ね履き。
「これなら大丈夫でしょ!だから僕にやらせて」
「ダメ!今ママが片付けてるから邪魔!あっち行ってっていったらあっち行って!」
するとサトイモは泣きながら、
「なんでダメなんだよ!僕は手袋してるのに、ママはしてないでしょ!ママのほうが危ないよ!靴下も履いてない!なんで僕だけダメなんて言うんだ!!」
「あんたは遊びたいだけでしょ!ちゃんと片付ける気なんてないでしょ!できへんくせにエラソーに言うな!面白がってるだけのくせに!」
サトイモは少しだけ図星のような表情をし、
「そんなことないよ!ちゃんと片付けるよ!別にいいじゃないか!!なんでダメなの?!」
と言いながら、ワーッと泣いた。
「言うことを聞けへん子はあっちへ行け!」
「なんでママはそんなにエラソーに言うの!」
「強く命令しないと言うことを聞かないからでしょ!!」
その後、サトイモは私の目を盗んで、奇跡的にきれいに真っ二つに割れた自分のお茶碗を拾って、逃げ去って行った。
…うざ。
指示が入らないことが、私にはうっとおしくて仕方ない。
とうとう学校でも
小学校で個人懇談があった。
担任の先生はとても丁寧に、学校での生活を逐一教えてくれた。
給食の食器を返す時とても丁寧にお礼と感謝の言葉を言うこと、算数が苦手な子を優しく励ましながら教えていること、体育では登り棒とうんていが得意でみんなの見本をやっていること。
そんな嬉しい話がある反面、先生の困りごとも多かった。
図書の授業中、図書室で走り回り、先生から、
「走る子は図書室にはいられません。走りたいなら運動場で走りなさい」
と注意されると、本当に運動場へ行って走ったことがあったらしい。
「私も注意の仕方を間違えました」
と先生は言いつつ、
「クラスから離れる行動をとられると…。そのときは図書の先生がもう一人いたからなんとかなったのですが。私がサトイモくん一人についているわけにはいかないので」
と難色を示した。
正直、私は、ほっといて勝手に走らせておいたらいいのに、と思ったけれど、学校というところはそうもいかないらしい。
懇談の最後には、通級指導教室への申込みと、学びの支援センターのサポート、スクールカウンセラーとのアポイントを、担任を通じて申し込むことになった。
使えるものは全部利用させてもらおう。
またもトイレか
学校でも、トイレに行って個室に入ると異常に長く、なかなか出てこないらしい。幼稚園でもそうだったし、家でもそうだ。
ある日、サトイモが長いトイレから出てきたらトイレが水浸しになっていたそうだ。
放課後、先生がサトイモと一緒に掃除をしてくれたらしい。
トイレ。水浸し。
その話を聞いた私の感想は、「あいつ、学校でもやりやがったな」だ。
ところがその翌日。
また先生から電話がかかってきた。
再びトイレの個室に閉じこもり、ようやく出てきたら、ありえない場所がいろいろ便で汚れていたという。おまけに便座とタンクの隙間に大便をして、それを大量のトイレットペーパーで覆い隠していたらしい。
「ちょっと度が過ぎるといいますか…」
さすがの先生も我慢の限界、という雰囲気だった。
「これが続くようだと通常学級では対応が難しいです」
私はただ謝るしかなかった。
さて、困るのはその後、家でサトイモにどう話すかだ。
やってはいけないことは十分わかっているはず。
あえて、困らせよう、問題を起こそうとしてやっているに違いなく、
「そんなことしちゃダメでしょ!」
と叱るのは、なんか違う気がした。
あんないい先生からも見放されて、
「通常学級では難しい」
と言われたことがショックで、可哀想で、なんかわからないけどサトイモを抱きしめた。
そのあと、「ちょっとお話があります。なんのことかわかる?」と改まると、
「ううん? うーん…、トイレのこと?」とサトイモは机の上に登りながら言った。
「そう」
ちゃんと座って話してほしいけど、サトイモは勉強机の上に登る。
「だってあれは仕方ないんだよ〜」
「仕方ないってどういうこと?学校がつらいの?」
「まぁね〜」
「でも、あんなことしたらいけないよね?」
「そうかもね〜」
正直、サトイモのモノの言い方は非常にムカつく。
ナメてんのか!と、怒鳴り散らしたい!
でも、たぶん、そんなふうに怒る、突き放す、ほったらかす、という対応を続けてきてしまった私の問題なのだろう。
夫が帰ってきてからその話をし、
「私のせいよね」
と言うと、夫は、
「そうやで。なみちゃんが悪いんやで。もっと優しくしたってよ」
と言った。
でも、どうしたって、あの子と向き合うのはムカつくし、面倒くさいし、嫌になる。
「子育ては仕事だから、嫌な上司や顧客にも笑顔で応対します」
歯をくいしばって我慢。
仏教説話
七日毎に実家に帰り、父の法要をしている。
先週は時間の関係でサトイモも連れて行ったが、今週は私一人。
読経のあと、御接待。ケーキ等を食べながら住職と話をする。
「あの子、ええ子やで。言うほど、ヤンチャちゃうやんか」
と住職は先週見たサトイモについて言った。
「ええっ?!そうですか?!よじ登って欄間から顔出すし、鴨居にぶら下がって懸垂してましたけど?!」
「ちゃんとあいさつするし、食べるときは『いただきます』も『ごちそうさま』も言うとったで」
「それくらいは…」
と、私は昨今のサトイモの問題行動や学校の先生から通常学級では難しいと言われたことなどを話した。
すると住職が、
「それはなんていうか、…平和やな」
とつぶやいた。
「それは平和やで。わしの空手教室の保護者なんか、ほんまに大変やからな」
住職は、自身が指導している空手教室で抱えている問題を話し始めた。
某有名反社会的勢力に所属している保護者がいるらしいのだ。
組を抜けるために指をつめて淡路まで持っていった、とか、その弟分が博打の借金を苦に自殺した、とか、その離婚した妻が「元夫に復縁を迫られているけど逃げていて、空手教室で元夫と顔を合わせると殺されるから、子供の空手をやめさせたい」と言ってきた、とか。
「それに比べたら、トイレ汚したとか、図書館で走り回ったとか、なんてことあらへん。平和や〜」
と住職は言った。
浴室ドア破壊
昨夜、サトイモが浴室のドアを割った。
一人でお風呂で水遊びをしていたときだ。
上の棚に置いていたタライを取ろうとして、浴室乾燥の物干しポールを落とし、それを自分一人でなんとかしようとして、ポールをドアにぶつけたようだ。

すっかり穴があいてしまった。
素人ではテープでふさぐので精一杯。かといって修理を呼んだらどれだけお金がかかるか。
まったく、情けない。こんなことするなんて信じられない!!こんなだから、担任の先生に通常学級は難しいって言われるんだよ!!
昨夜からずっと、泣きたい気持ちだった。
ところが、
「それは、平和や」
という住職のつぶやきで、なんか救われた。
人間、何によって救われるかわからないものだ。
南無阿弥陀仏。